千切れた腕の先が痛い。
幻肢痛と、いうらしい。
這いずって歩く床は、想像していたよりもずっと固くて、冷たい。
荒れ放題の光景が広がっている。
いろんなものが散乱して、不規則に道を塞いでいる。
障害物だ。
赤い、生ぬるい何かを引きずりながら、前に少しずつ進んでみる。
だいぶ軽くなったはずの体が重い。
目には見えない手がまだありそうな気がしていた。
だから、前に進んだ。
約束を果たそうと思ったから。
あなたは臆病で、怖がりだった。
飛行機に乗る時も、どこか、新しいところへ行く時も、一歩を踏み出す時も。
何かあると必ず、手を握ってほしい、と私に手を伸ばした。
そして、一歩歩き出せば、あとは自分で進んでいける。それがあなただった。
一歩踏み出してしまえば、あなたは生きていけるから。
あなたは、踏み出す一歩目の勇気にだけ、私が必要だから。
だから。
だから、手を繋いで。
最期に手を繋いで。
私が動けなくなった後のあなたの人生の一歩目を。
私がいなくなっても、歩けるような一歩目を。
体を動かす。
障害物が腹這いの体の下で、ゴロゴロ痛む。
私は手を伸ばす。
あなたの方へ。
さあ、手を繋いで
12/9/2024, 10:14:45 PM