ヒロ

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「何だこれ」
夜遅く、聞き込みを終えて事務所に帰ってみると、来客用も兼ねたローテーブルの上には小物がズラリと並べられていた。

日焼け止めローションにデオドラントシート。
ハンドタオルにアイスネックリング。
スポーツドリンクとサングラス。
他に大きなものでは男性用日傘や麦わら帽子まで。
選り取り見取りの暑さ対策グッズが所狭しと広げてある。

「おかえり~」
よくもここまでかき集めたものだと感心して見ていれば、物音を聞き付けて、奥の方から買い揃えたであろう本人が顔を出した。
麦わら帽子を掲げてみせて、寄ってくる相棒へ問いかける。
「どうしたんだ、こんなに。おまえ外に出ないだろう?」
「ううん。君に使ってもらおうと思って用意したんだよ~」
「えっ俺に?」
驚いて、手持ち無沙汰にくるくると回していた麦わら帽子を取り落とした。
拾い上げ、テーブルの上の小物と相棒を見比べる。
この一式全部、俺用に?
こんなに沢山、急に何故。
「ひょっとして、海か山に行く依頼でも入ったのか?」
「違うよー。普段から外に出るときに使った方が良いでしょ。毎日死ぬほど暑いんだからさ」
「え、ええ~?」
出た。こいつの過剰なお節介。
心配してくれるのは構わないが、時折こうやって暴走するのが厄介だ。
「要るか? こんなに。この中の一個か二個で充分だろ」
「何言ってるの!」
戸惑って不満をそのまま口にすれば案の定、機嫌を損ねた相棒は頬を膨らませてぶすくれた。
「ニュースでも厳重な警戒をって言ってるでしょ! 君は無頓着過ぎ。暑いって愚痴る癖に、いっつも軽装で出て行くから心配だよ!」
「そうは言っても、聞き込みするのに重装備も邪魔で変だろう? 全部着けてみろ。逆にこっちが不審者だ」
「ダメダメ! 太陽のパワーを甘く見ちゃいけないよ。あいつはその光だけで吸血鬼を殺せるんだから。馬鹿にしてると人間だって死ぬよ!」
そこを言われると反論もしづらいところだ。
言い返す言葉もなくなって、テーブルに置かれた装備品を睨み付けた。
確かに、冗談じゃなく最近の暑さは死ぬレベルだ。熱中症で搬送、最悪亡くなるニュースも後を断たない。
日傘を差して出歩く男を見るのも珍しくなくなってきた。
ここは大人しく相棒の助言に従うべきか。
「にしても、流石に一度に全部は使えねーかな……」
ハンディファンの電源を入れて風を浴びる。
うん、まあ涼しいかな。
渋々折れた俺に満足し、無理やり麦わら帽子を被せて相棒がにっこり笑う。
「大丈夫、だいじょーぶ。ちゃんと似合ってるよ!」
「はいはい」
まあ、心配かけていたのは事実だし。
ここは気持ちを有り難く受け取っておくとしよう。
使いこなしはその次だな。
明日からの自分の姿を想像し、相棒には内緒でこっそり笑った。


(2024/08/11 title:048 麦わら帽子)

8/12/2024, 10:01:50 AM