君と出会ってから、私は君に愛されることだけを望んで生きてきた。
「君はいったね?いつか必ず迎えに来ると」
「ええ。」
「どうしてあの時、私を突き放してしまったんだ。何年も、何年も何年も、私はただ君だけに焦がれてきたというのに。私はもうすっかり年をとってしまった。」
「ごめんなさい。」
骸骨のように肉の削げた私の手を、彼女はしっとりと握る。ああ、私はこの時をずっと待ち望んでいたのに。
「あなたは、私を愛してしまってはいけなかったのよ。」
次の時には、彼女の姿は跡形もなくなっていた。妖しく、さみしげな笑みを残して。
霧で閉ざされた意識が戻ったときには、私はすでにベッドの上で、そこには、もう二度と見ることのないはずであった妻と友人たちの顔があった。
「ああよかった……気がついたのね。」
「まったく運のいいやつだ。あんな崖から飛び降りておきながら、木の枝に引っかかって助かるなんて。」
安堵めいたため息が、蜘蛛の巣のように私を包みこんでゆく。
私はまた、君に愛されなかった。
5/5/2023, 11:30:34 AM