今日の空は何色か

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お題 もう二度と

 こんこんこん。ドアを叩く音がした。この時間、父も母も仕事で居ない。まあ、私もいつもなら学校に行っている時間なのだが、今日はどうにも体調が悪くて休みを取った。先ほどまでちょっとぬるめのお風呂くらいの体温だったのが、解熱剤のおかげで今は微熱程度まで回復している。…というのはどうでもよくて、音だ、問題は。明らかに3回ノックされた。私しか、いるはずが無いのに。覚悟を決めて恐る恐るドアを開ける。

「どうも。タコです。中に入れてくれませんか」

ドアの先には、自称タコと名乗るよくわからない生物がいた。どこから入って来たのやら、そこそこ場所を取りそうなそれは、ぬるりと毒々しい色の触手を挙げて私の部屋の前に佇んでいた。そのままにしておくこともできず、部屋の中に招き入れる。

「…私風邪ひいてるから長居されたら困るんだけど」
「大丈夫。僕はタコなのでうつりません」
「私が困るんだってば…。ところで何しに来たの」
「今夜海に帰るので、どこかで暇を潰そうかと…」
「今すぐ帰れ」

聞くと、自称タコと名乗る謎生物は観光のためにわざわざ陸に上がってきたらしい。図々しい態度が少々癪に障るが話し相手が欲しかったのも事実だったので、彼の暇つぶしに付き合ってあげることにした。謎生物の話は意外にも面白くて、気がつけば空が夕焼け色に染まっていた。

「あんた話すの上手いね。あっという間だった」
「光栄です。もう二度と会うことはないでしょうが、最後に会えたのがあなたでよかった」
「…最後だと思うとなんか寂しいや。私も楽しかった。気をつけて帰るんだよ」

謎生物はうにょうにょ動きながら器用に壁をつたって外に出て、楽しそうに帰っていった。観光の最後にいい思い出が作れたのなら良かったと思いながら、私は窓の鍵を閉めた。その1週間後。

「…もう二度と会えないとか言ってなかったっけ」
「陸で暮らすタコがこの世に一匹くらいいてもいいかなって」
「私の感動を返せ」

自称タコは戻ってきた。キレのあるツッコミを彼に浴びせながらも、私の口角は上がっていた。

3/25/2025, 4:24:51 AM