終わらぬ春がまた始まる。
これは夢か、現か。微睡みか。それとも、最初から全て現実でも夢幻でもなかったのだとしたら? 私など、最初から存在していなかったのでは?
なんて。
幾度と繰り返す『永遠』の春だ。
今更、夢と現を取り違えなどしない。
「次は誰の所へ行く?」
「誰だって良いさ。その時に考える」
「相変わらず行き当たりばったりだな、君は」
「長い旅路だ。考え無しも悪くないだろ」
「道連れの僕にはいい迷惑なんだけど?」
「んふふふふ。お前には幾らでも迷惑をかけるとも。だって私の"道連れ"なのだろう? 何処までも、何時までも。私かお前が飽き果てるまで、傍に居てくれるのだろう? この『永遠』の旅路をずっと。共に」
春の空を映す、澄んだ湖面の地を歩む。
一歩踏み出せば波紋が水のように広がる。
ユラユラと揺蕩う空の水は、蒼穹と夜空を同時に描いていた。
不意に足下の波紋が増える。
「君なぁ」
「ん?」
「どうして僕には言えて、彼らには言えないんだよ」
「お前がお前だからだよ」
「理由になってない」
「むぅ? お前は執着こそすれど、私に余計な感情は抱かないだろ。そういうお前の妙に割り切った所が好きだよ。私は」
「………………だから…………はぁ」
横並びの足は離れない。
足並み揃えた一歩が、こんなにも嬉しいだなんて。
「分かった、分かった。なるべく長く傍に居てあげるよ。どうせ天国にも地獄にも、何処にも行けない身だ。何処にも行けないなら、まだ君の傍で『永遠』を歩んでいた方がマシだ」
「妥協案のように言うな」
「じゃあ何かな? 君の事がこの世で一番大切で、他の何を捨て置いても君の傍に居たい、とでも言えば良いのか?」
「気持ちが悪い」
「そういう所だぞ」
夢でも良い。
現でも良い。
昔はそんなこと、露ほども思わなかったけれど。
(どちらでも構わんな。もう、独りではないし)
目が覚めた時も、夢の中でも。
傍に誰かが居るのなら。
『永遠』の旅も。まあ、幾らか気分がマシになる。
春の夜空を星が流れていく。
何処までも、何処までも。
終わらぬ湖面の空を流れる星に永き旅路を重ね。
行く末を見据えるように、こう呟く。
Bon voyage。永遠の旅路に、幸あれと。
【題:終わりなき旅】
5/30/2024, 4:56:06 PM