私は今日、この世界に終わりを告げる。
私は、そのことを知っていた。
もう治らないと言われている病気に、到底払える額ではない手術代。
今日も自分の心音が少しずつ、少しずつ弱まっているのが、わかっていた。
わかっていたから目を閉じた。
辛いなら目を背けて仕舞えば良い。
もう2度と目覚めることがなかったとしても、痛くないならそれでも良いと、私の心のように曖昧な空を見つめながら目を瞑った。
それからどのくらいったのだろうか
私は不思議なところにいた。
恐ろしほどに美しい花畑の中で呆然としていると、白い服を着た、幼い少年に話しかけられた。
おねーさん 何してるの?
ここはおねーさんが来るとこじゃないよ?
そう言われた私が、じゃあここはどこなのかと聞くと、その少年は、くひひっと笑って答えた。
おねーさん知らないの?
ここはあの世とこの世の境目。
おねーさんは、生きれるからここにいちゃいけないんだよ。
そんな答えを突き返され、私はなんだか腑に落ちてしまった。
そうなんだ。
でもね、私は病気なの。
きっともうしばらくしたら死んじゃうから、あの世に連れてかれるまでここにいるね。
そう私が答えると、しばらく黙っていた少年が口を開いた。
おねーさん、空の色、どんなだった?
唐突な質問に、私は驚きながらも、
曖昧な空だったよ。
と答えた。
すると少年が、
もったいないよ。
曖昧な空だってことは、これからもっと綺麗になるかもしれないじゃん。
ほら、俺がこの世に送ってくれるからさ。
と言って、私の体をぐいっと花畑の中に突き倒した。
だんだん体が眠くなっていく。
ぼんやりとした意識の中で、少年が悲しそうに手を振るのが見え、思わず、あなたは戻らないの、名前は何と聞くと、
僕は雨宮透。
いつか会いにきてね。
と悲しげな声が聞こえた、、、、
目が覚めた。
気がつくと私の周りにはたくさんの人がいて、生きるか死ぬか死ぬかの瀬戸際だったと伝えられた。
みんなが部屋を出ていく時、私は看護婦さんに、あの男の子のことを聞いた。
私と同じ生と死の狭間にいたのなら、この病院にいると思った。
すると、看護婦さんは、雨宮透は、昔この病院で死んだ、空が好きな男の子だったのだと言った。
私は驚いた。
でも、彼のあの寂しそうな顔が忘れられなかった。
彼のお墓は、空を見つめられるようにと、小高い丘の上にあるのだそうだ。
いつかこの病気が治ったら、彼の眠るところへ行こう。
そうして、彼の好きな空のことを、伝えたい。
私はそう願い、生きることを決めた。
6/15/2024, 10:02:02 AM