「お嬢さん、僕と1曲踊りませんか?」
彼と一緒に家で映画を観ていた時に、舞踏会のシーンで彼が発した言葉。
ワルツが流れ、ドレスを着た美しい女性とタキシードを着たかっこいい男性が踊りながら美しい弧を描く。
ワルツの音楽と美しい踊りに心を奪われ、少し体を揺らしながらそのシーンを眺めていたら、夫が急に立ち、私の目の前で、手を差し伸べ微笑みながら言った。私は、
「喜んで」
と、差し出された手に自分の手を重ねて、立ち上がった。学生の頃から、私も彼もリズム感が全く無かったため、とても踊りと言えるような動きではなかったが、手を取りながら、テレビから聞こえるワルツの音に合わせて、見よう見まねでクルクル回った。ワルツの場面が終わった時、彼は握っていた私の手の甲にそっとキスをした。ちょうど部屋の窓から綺麗な月が見えた。もし、私が昔のお嬢様で、彼と身分違いの恋をしていて、今日と同じ月の下で踊っていたら、きっと私は彼と駆け落ちしていたんじゃないかと思うぐらいとても素敵な気分だった。
大きな満月の下、月の光に照らされながら、2人でぎこちないワルツを踊るのも悪くないと思った。
次舞踏会の場面が出てくる映画を観た時は、私からダンスに誘ってみようかな。
10/4/2024, 11:31:37 AM