海月

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お幸せに。
そう言って私はあの子を送り出した。こうする以外の逃がし方が分からなかったから。

旦那様もご家族も優しい方々だった。政略結婚ではあるが、きっと大切にしてもらえるだろう。
暖かい部屋。ふかふかの布団。暖かなご飯に、少し熱めのお風呂。綺麗な着替えだって用意してもらえることだろう。冷たい物置に誂られた私室で薄く硬い布団に挟まり眠り、冷ご飯を食べて週に一度だけ水で体を清め、ボロボロになってしまった着物を直し直し着る。そんな今の生活より、ずっとずっと素敵な生活が送れるはずだ。
だから、私は悪女を演じて妹を送り出した。私はいい。事実、私は親に贔屓されているから。妹みたいな暮らしはしていない。やれ花嫁修業だ勉強だと口酸っぱく、過剰な程に言われているがそんなものは妹と比べれば些細なことだった。

どうか、貴女が幸せになれますように。

そう願いながら、私は家という監獄の中で目を閉じた。

1/4/2025, 8:58:02 PM