飛花

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 心の中がバレていた。彼はわたしの好きな人を当てた、わたしが彼を好いているということを。そんなに分かりやすかったかなとは思うけれど、バレているのならもう隠す必要はないかもしれない。ただただ恥ずかしい。周りは動いているはずなのに、何も頭に入ってこない。目の前を通り過ぎる車と人が、水を跳ねて進むのが見えるだけ。
「くるみ分かりやすすぎ。僕が好きな人おらんとか言ったらすぐ拗ねるしさ」
 わたしは鈍感。いやいや、でもでも。
「可愛いなあって思ってたよ」
 彼がよくわたしに会いにくるなあとは思ってたけれど、それはきっと友達の範疇で、恋愛感情はないと思っていた。わたしはそう思い込んでいたに違いない。混乱しすぎて記憶がまばらになってきた。空気を読まない車が信号で目の前を止まる。
「いつからなん?」
「内緒」
「んもう」
 なんだろね、この胸のごわごわした気持ち。綿が詰められている感じ。でもね、なぜか不快じゃない。きっとただ混乱してるだけ。
「まあそういうことです。くるみはどうしたいっすか?」
 なぜか敬語になる彼。
「んー……いつも通り接してくれたらそれで嬉しい」
「……曖昧なんが一番困るんすけど」
 彼はなぜか嬉しそうに笑った。もっと彼に近づきたかったけれど恥ずかしくなって、帰ろ、とだけ言って立ち上がる。もちろん彼もついてきたけれど何も話せなくて、ただ雨上がりの音が耳にぶつかるだけだった。






#雨に佇む

8/27/2024, 3:12:15 PM