わをん

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『溢れる気持ち』

バチェラーパーティというものにお呼ばれされた。結婚を間近に控えた独身男性を仲間内で騒ぎつつ祝うというものだ。しかしSMSで知らされた居酒屋で通された席には彼ひとりだけだった。
「あれ、パーティ会場ここで合ってる?」
「うん。俺とお前のパーティだ」
というわけで、彼の独身最後のサシ飲みをすることになった。
お互いに酒飲みなので食べるのもそこそこに酒を注ぎ注がれて徐々に出来上がっていく。こんな時には言うつもりのなかったことがぽろりと零れ出てしまうから気をつけないといけない。
「実は俺、結婚したくないかもしれない」
新郎になる予定の彼がぽろりと零した言葉にどうしてと聞き返す。
「相手のことは好きだけど、いろいろと合わないところもあるなと思えてきた」
彼が言うには結婚を控えて同棲を始めてみたところ食べ物の好み、酒の楽しみ方、休日の過ごし方が自分とことごとく違うとわかってきたらしい。それはつまり、彼の楽しみを一緒には楽しめないということにもなる。
「どうしたらいいかな」
やや据わった目がこちらを見つめる。自分にできる選択肢はたくさんあるが、どうしたものか。
「結婚したくなくなったんなら、正直に伝えるといいと思う」
「でも、どう切り出したらいいかわからない」
「やるなら早いほうがいいよ」
「そうだけど」
「電話かけてあげようか」
「えっ」
「ほらスマホ貸して」
呼び出し音から数十秒経ってから、騒がしい雰囲気が電話越しに聞こえた。あちらもバチェロレッテパーティ開催中らしい。もしもしどうしたの、と初めて聞く女性の声はなんとなく品がなかった。それで踏ん切りがついてしまった。
「あの、結婚取り止めさせてください。僕が彼を貰っていきますので」
『は、えっ、ちょっとどういうこと?』
「言ったままの意味です。今から荷物をまとめますので」
それだけ言って電話を切った。ぽろりと零れ出てしまった言葉に彼の方は驚いて固まっているが、のちほどちゃんと話そう。
「じゃあ、荷物まとめに行こうか」

2/6/2024, 3:52:49 AM