白眼野 りゅー

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「君は、巡り逢いって信じる?」

 君は僕に向かってそう問いかけながら、学校を出て二つ目の角を左に曲がった。彼女の家に向かうには若干遠回りだが、途中で僕の家に寄ることができるルート。なんでわざわざ? なんて問いかけるような間柄の僕たちではない。

「というと?」
「私たちの出会いは初めから神によって決められていて、出会うべくして出会った、みたいな」

 君に言われ、僕は少し考える。僕らの出会いが運命で、家が近所だったり同じクラスに振り分けられたり、そういう些細なこと一つ一つが神の導きだったら……。もしそうなら、なかなかロマンチックな話だ。君がそんなにロマンチストだとは知らなかっ「もしそうなら、めちゃくちゃムカつくよね」……流れ変わったな。


【巡り逢いに一手間を】


「え、今ムカつくポイントあった?」
「だってさあ、そんなに全部お膳立てされてるのって、お魚の骨を全部取り除いて提供されるようなもんじゃん!」
「……それのどこが問題なの?」
「えー!」

 想像する。骨を何者かの手によって全て抜き取られた魚。ふわふわの身を、小骨が口内に刺さる心配もせずに口いっぱいに頬張る。……最高じゃないか。

「なんでわかってくれないのー! 私は君のことを何でもわかっているというのに……」
「ちょっと、拗ねないでよ」

 面倒な人だなあ、とは、さらに面倒なことになりそうなので口にはしなかった。

「お箸で骨を取り除いて、小骨のことを心配しながら、ちょっとずつ食べるの。それがお魚を食べるときの醍醐味なんじゃん」
「珍しい人種だ」
「それに、骨を取り除かれたお魚が出されたら、『ああ、このお魚に箸をつけるのは私が初めてじゃないんだな』って思っちゃうじゃん」
「思っちゃわないよ。考えすぎじゃない?」
「『私はこの人の初めてじゃないんだな』って」
「本当に考えすぎだよ! 魚の話だよね!?」

 とにかく! と咳払いを一つして君は続ける。

「私たちはもう子供じゃないから、お箸が一膳あれば骨は自分で取り除けるの! だからどういう理由があれ他人様の食事に勝手に箸をつけちゃいけないって話!」
「……そんな話だったっけ」
「どうだったっけ?」

 何だか、元の話題からだいぶ脱線したような気がする。

「じゃあ君は、その魚の骨がどんなに取りにくくてもお箸一膳で戦うんだ」
「当然! お箸を持つ指が痛くなっても、時間がかかってご飯が冷めちゃっても、やっぱり自分で骨を取って食べたいよ」
「わかんない感覚だなあ」
「骨付き肉から勝手に骨を抜き取られた感覚?」
「ちょっとわかった」

 つまり、たとえ手が汚れることになっても、意外と骨の体積がデカいから見た目より肉自体のボリュームがなくても、シンプルに食べるのが面倒くさくても、僕はきっと骨付きのロマンを求めるだろうということだ。……そんな話だったっけ。

4/24/2025, 11:38:04 AM