1年前(帰らない日々)
―――どうして離れてしまったんだろう。
「あ………」
狭い街で起こる偶然。
ショッピングモールで出くわした二人は、お互いを見るなりその場で固まった。
彼の隣に寄り添う知らない女。
彼女の隣に佇む知らない男。
―――どういう関係か、聞くまでもない状況だ。
「知り合い?」
「知ってる人?」
お互いの相手が彼、彼女に尋ねる。
「え、あ………うん」
「………まあ」
『頑張って、一緒の大学に行きたい』
―――当時もう既に付き合っていたわたし達は、1年前同じ大学を志望し受験に向けて励んでいた。
春には暖かい日差しの入る学校の教室で
夏には燦々と照りつける太陽が眩しい避暑地で
秋には夕暮れの早くなった肌寒さを覚える塾の帰り道で
冬は雪の舞うのを家の窓からそっと眺めて
わたし達はいつも一緒に合格を目指しひたむきに勉学に向き合っていた。
『うう、わたしやっぱり自信ない。この成績で受かると思えない。もうやだ』
『ばっか弱音吐くなよ。憧れのキャンパスライフまであと一歩! 一緒に美味い学食食うんだろ、食いしん坊?』
そう言って笑う彼に何度救われただろう。
彼の言葉に何度励まされただろう。
―――そうして次の年の春が訪れた時。
憧れのキャンパスに足を踏み入れたわたしの隣に、―――彼の姿はなかった。
「………ねえ、もう行こう?」
―――ずっと立ち尽くしている彼に、どこかただならぬ空気を感じ取ったのだろう。
彼の相手が急かすように腕を引く。
「………大丈夫?」
彼女の相手も顔を覗くように様子を確認する。
お互い目を逸らせなかったわたし達は、相手に促されるまま―――何も言葉を交わさずすれ違った。
『どうした、おせーな。置いてくぞ?』
―――笑顔で手を差し伸べてくれたいつかの彼の面影が脳裏を過ぎる。
………ああ。どうして。
どうしてわたしはその手を離してしまったんだろう
END.
6/17/2024, 2:26:25 AM