霧つゆ

Open App

⚠浮気ネタ、微暴力ネタ

 「もう、生きたくないの。」

 よく笑う、幼馴染で、表情も豊かでクラスでも人気な彼女が言った。私の服の袖を握って、下を向いていた。コンクリートにポタポタと水滴がつく。彼女は、泣いていたのだ。

 「取り敢えず、部屋へおいで。」

 弱みを他の人に見せない彼女は、唯一私に弱みを見せてくれる。だから、玄関の前で泣いている姿を、他の人に見られたら、さらに嫌な思いをしてしまうと思って、提案した。
 彼女は、誘導されるがままに、私の部屋へ入っていった。私は、彼女を椅子に座らせ、飲み物を取りに行った。

 「おまたせ。それで、どうしたの?」

 しゃっくり混じりの泣き声をした彼女問いかけた。

 「あ、あのね…彼氏が、う、浮気してて…。」

 モテる彼女は、校内でも人気な彼氏が居た。お似合いで、素敵なカップルであると、よく言われている。
 そんな2人の関係にヒビが入った。だから、彼女は泣いているのだった。

 「彼のこと…信じて、て…。なのに…なの…に…!」

 再度、自分の気持ちを言葉に出して、悲しみがこみ上げてきたのか、また泣いてしまった。
 彼女はいわゆる、勝ち組。家族の仲はとても良く、笑いが耐えない。そしてクラスでも、誰もが彼女を囲んでいた。常に誰かに支えられ、誰かに愛されている。だからこそ、奪われ慣れていない。私と違って。

 「そんな、クズのために死ぬこと無いよ。別れて私と楽しい思い出たくさん作ろうよ。」

 慣れていない慰めの言葉は彼女に届くだろうか。背中を擦り、ひとしきり泣いたあと、彼女は可愛らしい顔を上げ、涙を拭いた。

 「ありがとう。なんだか、彼のために泣くの馬鹿らしくなっちゃった。そうだね、君との沢山思いで作ることを、生きる意味にして、死ぬの辞めるよ。」

 彼女は、私が持ってきた飲み物を飲み「ごめんね、」と言って家へと帰っていった。その姿は、新しい翼を手に入れた鳥のように美しく、凛々しかった。
 玄関で、彼女の姿が見えなくなるまで見届けると、私は扉を閉じ、コップを全て元の位置に戻し、彼女が家に来た証拠を徹底的に消した。
 バレてはいけない。バレたら、私は…。
 私は、部屋に戻り、息を殺して隅っこに座った。体育座りになって、足や腕にできた紫色の住人を撫でる。
 彼女が私の生きる意味。どんなに親が暴力的でヒステリックでも、学校でいじめられていても。彼女が私の名を呼ぶから、私は生きていける。これは一種の依存。
 でも、彼女も私に依存してくれなきゃ。だから仕向けた。別の人と話している彼を撮って、彼女の机に入れた。下駄箱にも、カバンにも入れた。捨てられても、私が居ることを、彼女に刷り込ませる。彼女には私だけでいい。

 「生きて、私に依存してね。」

 私が、貴方の生きる意味になる。貴方が私の生きる意味であるように。

No.4 _生きる意味_

4/27/2024, 2:22:47 PM