また始まった。
石炭を溶鉱炉に放り込みながら、ため息をつく。
「幸せとは!」
今日も幸せを説く外の人たちがうるさい。
ガラガラと音を立てながら、重い歯車がゆっくりと回っている。
水蒸気が回してくれているのだ。
石炭を投げ入れながら、煙を吸い上げてしまって、慌てて咳き込む。
この職場は、喉と肺に優しくない。
石炭の燃える煙が、ありとあらゆるところで黒煙をあげて、立ち込めているからだ。
「美味しい空気を吸うのが幸せ!」
外で何かがそう叫んでいる。
大抵、昼のこの時間帯に外で幸せを説くことができるのは、仕事を持たない者、仕事をしなくても暮らしていける者たちのみで、昼間にのうのうと幸せを説けるだけ、奴らは少なくとも、こうして昼に肺と喉を犠牲に働いている私らよりは幸せだろう、と思う。
…とは思いつつも、今の現状に不満があるわけではない。
毎日の仕事は体力を使うが、街を支えているというやりがいで心は満ちているし、肺や喉をやられていても、家族がみんな楽しく暮らせている。
空を汚しているこの石炭が生み出した機械の技術で、先の戦争で足を失った父さんも、義足をつけて自由に歩き回れている。
あの黒煙が上っているおかげで、私たち人間はキツい肉体労働を全て機械にさせることができる。
この街では、綺麗な空気を吸うのが幸せなんて話はこの街で働いたことのない、一部の“幸せ”な人たちの戯言で、だからこそ、労働者階級の私たちは、彼らを無視していた。
この街の空は今日も黒い。
でも私たちは、今日も幸せだ。
1/5/2025, 12:59:49 AM