浜崎秀

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「開きっこないよ」
 
 5分。ジャムの瓶が僕をKOするまでにかかった時間だ。お土産の名産品に高級ジャムを貰ったのが先月のこと。母の勿体ない精神が発動し、中々使わせてもらえなかった。賞味期限が切れてしまっては逆に申し訳ないだろうと、やっと説得したのが昨日のこと。今朝は珍しく美味い朝食が食べられると思った。それなのに……

「開かない筈ないでしょ?もっと頭を使ってよ」

 テーブルで仕事中の母は無責任にそう言う。もう一度捻ってみるが、瓶は固い要塞のままだ。手はヒリヒリ言って、実力の半分も出せない。とてもじゃないが開くとは思えない。

「ほら、貸して?」
 ようやくキッチンに出てきた母は、瓶を掴んで力を込めると、いとも簡単に開けてしまった。
 
「どうやったの?」
 僕が目を丸くして聞くと、母は意地悪そうに笑って
「コツがあるのよ」と言った。

「まだまだ一人前の男には程遠いわね」

「力だけが男の象徴なんて、感性が古いよ」

「そんなこと言うからモテないのよ」
 パンが口に詰まった。母は優しく背中をたたきながら、咳き込む僕を面白そうに見てる。

「何でモテないってわかるんだよ」

 母はニヤリと笑っている。
「あれ、ホントにモテないの?」

 僕はもう何も言わなかった。

「さっさと食べちゃいなさい」

 母はそう言ってまた仕事に戻る。まだまだ母には敵わない。

『力を込めて』

10/7/2022, 10:20:27 AM