『透明な涙』
人魚の涙が七色に煌めいて波に溶けた。
そんな、夢をみた。
人魚は彼に何かを告げようとしていた。だが声というかたちにならない。水の間なら通るだろう振動は大気のなかでは何の音も為さなかった。
目をあければ天井がみえた。
七色に煌めく涙。七色で透明で。
彼は深く息をついてまた目を閉ざす。
海女のように、夢に深くもぐるような心地だった。
再びやってきた彼に人魚は今度は微笑った。
――来てしまったのね。
夢にもぐり、波をもぐった、此処は海底。人魚の世界。
――来たのなら、わたしの、勝ちね?
ゆっくりとたおやかな腕が彼に差し伸べられる。
彼は逆らえなかった。人魚の意に叛く行動をとろうなどと考えもつかなかった。
白い腕が頸に絡みつく。
人魚が笑う。ぎっしりとはえる、鋭い牙。
それをみても彼は人魚に無防備に喉許を晒しただけたった。
さいごの記憶は、涙だった。
透明なその涙は、彼の後悔だったのか。人魚の懺悔だったのか。
今更問うても詮なき……、
1/16/2025, 10:27:27 AM