水族館の中はいつも暗くて、涼しくて、少し海水のしょっぱい磯の香りが匂って、沢山のお客さんの喧騒もあって子供の頃はあまり好きではなかった。
背も低いから、水槽の一番前に行かないと人だかりで何も見えなくて、大人しく順番を待っている間に飽きてしまうことも多かった。
親はそんな私を見て、「水族館つまらない?」と聞いてきたが、照明のせいで顔がよく見えなかった。
だからか、親がそばにいるにもかかわらず、なんだか自分が夢の中へ迷子になってしまったような心地になっていた。
見上げると、ただただ自分がちっぽけに思えた。そんな中で、水槽のゆらめきは一等美しく見えた。人工照明だろうけど、ゆらゆらと水面の動きが光に当てられてゆっくりと移ろっていく様を見るのが、とても好きだった。時に魚や川藻の動きに合わせて、柔らかく表情を変えるその光が、私の幼少の頃に思い出される水族館の思い出だ。
水族館の世界は、私の寂しがりの心を知っているかのようだった。
お題/やわらかな光
10/16/2024, 4:37:21 PM