《カラフル》
「何これ可愛い!」
「だろ? おまえ絶対好きだと思った」
瓶の中には色とりどりのジェリービーンズ。
空豆みたいな形の砂糖菓子は目にも舌にも楽しい。
大きな目をキラキラさせて笑顔になったのを見て、心の中で「よっしゃ!」と叫ぶ。
きっと今のオレはそれはもう得意満面といった顔をしてることだろう。
姉ちゃんを拝み倒して連れてってもらった雑貨屋さんで見つけた時、ひと目で「これだ」と思った。
せっかくの誕生日プレゼントなんだから形に残る物にしたら?
そんなありがたいアドバイスもろくに耳に入らなかった。
たしかに中身の菓子は食べたらそれで終わりだけど、猫の顔の形をした瓶も可愛いし、食べ終わった後も小物入れとかにして使ってくれるかもしれない。
そうして買ってきたこのプレゼントを渡したのが今である。
予想通り、いや、予想以上に喜んでもらえて、オレまで嬉しくなってしまう。
今はただの幼なじみだけど、これで少しは意識してもらえるかもしれない。
中学生になって急に可愛くなったとか言って、突然周りの奴らが騒ぎ始めた。
自慢じゃないがオレは小3の頃からこいつのことが好きだったんだからな。
先月まで男女だのゴリラだの言ってたようなニワカになんか負けていられるか。
こいつの誕生日も、好きな物も、あいつらと違ってオレはちゃんと知ってるんだ。
「それで、これ、どうしたの?」
「どうしたのって……プレゼントだよ。おまえ、今日誕生日だろ」
まさかの本人が忘れてるパターンだった!
でも逆に「わたしも忘れてたのに覚えててくれたの!?」ってなるやつか!?
よくやったオレ!
これで更に好感度アップするかも!!
なんて浮かれたのも束の間。
「わたしの誕生日、明日だけど」
「え?」
「小さい時からずっと一緒だったのに誕生日もちゃんと覚えててくれないんだ」
向けられたのは、予想とは真逆の白い目で。
目に見えてがっかりした顔をされて、こっちの頭の中まで真っ白になって、言い訳の言葉も出てこなくて。
「ちょ、嘘だろ、待って今日何日!?」
買ってもらったばかりのスマホを出してカレンダーを確認しようとするけど、パニクってるせいで目当てのアプリが見つからない。
それがますますオレを焦らせて、心臓はバクバクするし、嫌な汗は出てくるしで、本気でわけがわかんなくなってくる。
たぶんオレは相当情けない顔をしてたんだと思う。
あまりに慌てまくるオレが気の毒になったんだろう。
彼女は大きなため息をついて、落ち着かせるようにオレの手を握ってくれた。
華奢でほっそりした指先は少しひんやりしていて、その感触が焦っていた気持ちを鎮めていってくれる。
「いじわる言ってごめん。明日って言ってもあと何時間かしたら当日だし、一番乗りでプレゼントくれたのは嬉しい。ありがとね」
「オレも、誕生日間違えるとかカッコ悪すぎてごめん」
「いいよ。フライングしてくれるくらい誰より早くプレゼントくれたかったんでしょ。あんたのそういうとこ、わたしは好きだし」
「えっ!?」
「卒業のちょっと前から、あんた背が伸びたでしょ。女子の間で格好いいって言われてるんだよ。でも、他の子よりまだわたしの方が仲良いって自惚れてもいいんだよね?」
悪戯っぽく見上げてくる上目遣いは反則級の可愛さで。
これはどう考えてもオレのこと好きってアピールだよな!?
さすがにオレのイタい勘違いじゃないよな!?
その日、オレ達は腐れ縁の幼なじみから、彼氏と彼女にクラスチェンジした。
初めてのキスは、甘い甘い砂糖菓子の味。
それからの日々はジェリービーンズみたいに色とりどりの思い出で紡がれていく。
5/1/2023, 11:45:14 AM