ななせ

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「外、行こうかな」
ボソッと呟いた独り言は、私に着替える気力を与えた。人前に出られるような格好ではないと思いつつ、替えたのはジーンズだけだった。
スマホも財布も何も持たずに外へ出る。これは、散歩と言うのだろうか。
出勤や買い物以外で外に出たのは、もう何ヶ月振りだろう。背中に当たる太陽の熱に、自分の貧弱さを思い知らされた。
目的もなく、ただただ歩いている。歩くことさえ意識せずに、前に足が出ていく。
こんな家もあったのかと横目で見て、人様の家をジロジロ覗くのは良くないと戒める。前にスーパーがあった場所は取り壊されて、空き地になっていた。何屋さんだろうかと思って見た店は美容室だった。
前から来る人は、私と違ってお洒落な服を着こなしている。途端に、自分の格好が恥ずかしくなった。
何とも思われていないだろうか。今、目が合ったのは気のせいじゃない。どこかおかしいのか。いや、私が見ているから見ただけなのか。
ぐるぐる考えていると、もうその人はいなかった。
人がいなくなると、途端に寂しくなる。お腹のあたりが、少し冷たくなる気がした。別に胃腸が弱いわけじゃない。今までも、度々こんなことはあった。なくなりかけていた記憶と共に、トラウマも引き出されそうになる。
もう、帰ろう。
久しぶりの外出は、別に気分転換にもならなかった。けれど、私が少し人間に近くなった気がした。


お題『街』

6/12/2024, 1:36:51 AM