『未解決事件の真相』
「後悔先に立たず」と言うけれど、 僕が探偵人生の中で出会ったこの事件こそ、まさにこの諺を体現していると言ってもいいだろう。
思えばこの事件は初めから奇妙だったのだ。普段は事件に興味のある素振りを見せない助手が、この事件に関してだけはやけに熱中していたから。
事件の概要はこうだ。とある富豪の屋敷から稀代の天才彫刻師が作った「彫刻」が盜まれた。それは奇妙な形の作品で、先端が鋭利な刃物のように尖っていて、素手で触ると怪我をするほどなのだとか。そんな危険な代物であるから、それはもう厳重にガラスケースの中に仕舞われていたし、そもそも屋敷の警備がしっかりしていたから、下手人が潛り込むことすら困難な筈であった。
だからこそ身内の犯行が疑われた訳であった。関係者は以下の通りだ。(※プライバシーの観点から、人物名についての記述は差し控える)
・屋敷の主人: 盜品に遭った被害者。「彫刻」を見るために毎日部屋にこもっている。
・妻: 「彫刻」を毛嫌いしていた。
・息子: 独り立ちしてすでに実家を出ているが、事件の前日実家を訪れている。
・家政婦: 二日に一度、家事をしにやってくる。事件の日は休日だったため屋敷には来ていない。
・庭師: 週に二度、庭の手入れにやってくる。事件発覚前の昼間に手入れに来ていた。
助手がこの事件に関する新聞記事を持って来たとき、僕はすぐに犯人に関する予想を立てた。僕の過ちは、それを口に出して言ってしまったことだ。
「犯人は息子だろう」と。
僕の見立てでは、この「彫刻」によってこの家族は壊れてしまったのだろうと推測できた。「彫刻」に夢中な主人…それを嫌悪する妻…そして早々に独り立ちした息子…。息子は家族を壊したこの呪物を屠ろうと実家を訪れて、それを盜む計画を立てたのだ。
その計画とは、前日に実家を訪れて一旦帰ったふりをし、屋敷の中に潜んで主人たちが寝静まった夜中に「彫刻」を盜み出すと言うものだ。
一見杜撰に思う僕の推理が、本当に正解だったのかはわからない。だけど、おそらく正解だったのだろう。
容疑者とされた息子はその後姿を消した。それと同じタイミングで僕の助手も行方をくらました。
事件は未解決のまま時が経ち、ある時僕宛に差出人不明の手紙が届いた。それにはこのように書いてあった。
[この便りが届く頃にはもうこの身は朽ち果てていることでしょう。これがあの時告げられなかった、最期の挨拶となることをお許しください。あの時点では、貴方にこの事件を解決される訳にはいかなかったのです。だから解決の手掛かりとなる私自身が消えるしかなかった。−−中略−− やっと準備が整ったので、私は呪物と共に眠ることにしました。願わくば、貴方のこれからが幸せでありますように。]
僕はこの手紙をどうすれば良いのかわからなかった。彼に「呪物」とまで言わしめた「彫刻」とは一体なんだったのだろう。
あの時僕が彼に推理なんて伝えなければ、彼は今も助手として何食わぬ顔で此処にいたのではないか。そんなたらればばかりが頭に浮かぶ。僕は深いため息と共に、その手紙を机の引き出しの奥底にしまった。
それから数日も経たぬ頃、事件は思わぬ形で解決を迎えた。
とある新興宗教の教祖が逮捕されたのだ。その宗教のシンボルマークとしてニュースに取り上げられたのは、先端が尖った生物のようなナニカ。まさに「呪物」と言っていいほどの代物だった。
お題【後悔】
5/16/2026, 5:00:27 AM