桔花

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・愛を注いで
古く、イザナミとイザナギは液体状の世界に降り立った。
「え、今日デートするの、ここ?何にもないじゃない」
イザナミが不満そうに声を上げる。イザナギは焦った。最近疲れているから、静かな場所がいいといったのは君じゃないか。そんな言葉を飲み込んで、イザナギはにこりと笑う。
「愛し合っていれば、そんなこと関係ないだろう?」
イザナミはつんと唇を尖らせ…たまりかねたようにほおを赤く染める。
「し、しかたないわね」
内心の安堵を隠しながら、イザナギはイザナミの手を取った。
二人は液体の世界に、愛の言葉を注ぐ。ぐるぐるぐるぐるぐる…
***
「ちょっと、聞いてるの?」
「え」
パッと顔を上げると、不機嫌全開の女子がいた。僕の彼女だ。
手元のインスタントコーヒーは、かき混ぜすぎて溢れんばかりに泡だっている。
「はぁ…ホントに人の話聞かないよね。クリスマスデートがコンビニとか、マジありえないから」
だって君が、ケーキとチキンが食べられる、家から近くて空いている店がいいと言ったんじゃないか。苦い顔を隠しながら、僕は必死に言葉を探す。
「あ、愛し合っていれば、そんなこと関係…」
「関係あるわよ!ばーか!私帰る!」
店中に響く大声をあげて、勢いよく立ち上がる。まずい。失敗した。
テーブルのコーヒーを引っ掴み、慌てて後を追う。視線が痛い。
自動ドアが開く。チラリと見えた彼女の耳が、赤く染まっていた。

12/13/2023, 11:03:05 PM