「ねぇりゅうちゃん、私もう泣かないよ」
そんな事を言われたのは二十年程前だろうかと龍之介は過去を思い返した。この言葉の持ち主は昔よく遊んでいた小柄な女の子だった。いつも桜色の着物を着ていて其れがよく似合っていたことは覚えている。彼女は余り器用な方ではなかったのでいつも龍之介に頼っては近所のガキ大将とやらに揶揄われていた。
この言葉は一見自立を試みる耳ざわりの良い言葉に聞こえるが、其れは一種の依存の存在をほのめかす言葉であった事に数年経ってから気が付いた。龍之介はそれきり女に泣かれるとこの言葉を思い出す。不図頭の奥底から彼女の声が響くのだ。いや声はもう覚えてないらしい。それ程前の事なのに龍之介の頭に残っては、時々姿を見せて彼を悩ませていた。
龍之介は困っていた。女の涙が見れなくなったので、泣かせないよう神経を使い、誰も見ていない真っ暗闇で己の心をすり減らすのだ。今彼女は何処で何をしているのかなんて全く検討も付かないのに。
泣かないというのはそんなに良いものなのか、努力するものなのかと龍之介は時々夜中に彼女に問いかけている。
3/17/2026, 1:54:41 PM