Werewolf

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【エイプリルフール】

 毎年毎年よく飽きないな、と思いながら相互フォローの友人のツイッターを眺める。○○と結婚しますとか、○○のファン辞めますとか、そんなのが羅列されていく。
 私はといえば、いつも通りおはよー仕事嫌だーシュッシャッターと呟くばかりだ。彼らが何を楽しみにしているかなど知ったことではないのだから。
「あれ?」
 と、私はとある一人のツイートに目を止めた。
「実は異世界転生ガチ勢です! この世界って、特に日本って盗賊も出ないし物価安定してるし、まぁ貧困はあるけど、でも救済はあるし最高!」
 確か、彼女は普段ファッション系のツイートばかり、特にネイルの技術が半端なく良いからフォローしたのだ。凝った意匠を素早く仕上げるということで、お店もアピールしてたし、彼女の予約は長いと半年先まで埋まっているのだとか。コラボの付け爪も転売対策に受注生産、つまりそれだけ売れる算段がついているということ。
 ヲタクっぽいツイートをしない人が、急にヲタツイをしてると気になる。なんとなくメディア欄を遡っても、どれもこれもファンタジックなテーマのネイルの仕上がり写真や、施術動画ばかりだ。
 ルーン文字や幻想の動植物、遠景のお城や宝石のデザイン。要素だけなら厨二病なのに、彼女がまとめると現実感が凄い。まるで実在しているかのような──
「いやいや、何言ってるんだか」
 私は休日出勤のデスクで一人呟いた。他に誰もいない。麗らかな陽気が窓から入り込み、差し込む日差しは暖かく、桜が散りかけているのが外に見える。お昼は屋上で食べよう。なんだかとても現実的ではないのだ。

 そのネイリストが「ママが迎えに来たから、一旦還るね、またすぐ来るよー!」とツイートしてから、行方不明になってしまったと知ったのは、翌日の午後になってからだった。

4/2/2023, 2:44:09 AM