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 私と拓哉は付き合っている。
 拓哉の隣が、私の定位置。
 自分で言うのもなんだがラブラブだ。

 運命のいたずらで、合えない日が続いたこともあったけど、そんなものは愛の前では無意味。
 何人たりとも私たちの仲は引き裂けない。
 だって私たちは運命の赤い糸で結ばれているから。
 きっと生まれる前から一緒にいることが決まっていて、神様もそれが祝福してくれている。

 同棲して一日中一緒にいたいけど、私たちは高校生
 親からは許してもらってないけど、、高校卒業したらいいって言われてる。
 大学だって一緒の所に行く。
 私たちは離れてもいい時間なんて無いのだ。

 今日も私は拓哉の隣にいる。
 私が当たり前の様に拓哉のそばにいて、拓哉もそれが当たり前だと思っている。
 私は幸せだった。
 これからもずっと、それが当たり前の様に続くと信じていた。

 けれど、その当たり前が足元から崩れ去る経験をした。
 ある日、学校から帰って自分の部屋に戻って拓哉と電話しようと思っていた時の事。
 居間から母さんが出てきて、玄関で呼び止められた。

「咲夜、話があるから居間に来なさい」
 そう言い残して、部屋に戻る母。
 一体何の用だろう?
 この前の小テストの点数が悪かったことががバレたかな
 私はビクビクしつつ、居間に入る。

 そこにいたのは、私を呼んだ母と、普段は夜遅くまで仕事で滅多に帰ってこない父がいた。
 まさか父までいるとは……
 本当に何の話だ?

 背中に嫌な汗が流れる。
 このまま逃げたい衝動に駆られるが、そうもいかない。
 私は覚悟を決めて、テーブルをはさんで、両親とは反対側に座る。

「母さん、父さん、話しって何?」
 私は極力平静を装って両親に尋ねる。
 すると母さんが、気まずそうな顔で私を見た。

「実はね、拓哉君のことで話があるの」
 拓哉の事?
 もしや結婚を認めてくれて――
 なんてお気楽な話題ではないことは、両親の顔を見れば明白。
 聞きたくないなあ。

「父さんから話そう。
 咲夜、よく聞きなさい。
 拓哉君と別れ――」
 気付けば私は父さんを殴っていた。
 殴られた父さんは、そのまま床に倒れ、動かなくなる。
 父さんはたった今、父さんだった物になってしまった。
 惜しい人を亡くしてしまった。
 でも仕方がないことなんだ。
 私と拓哉の仲を邪魔する奴は、親だって許さない。

「咲夜、いきなり殴るとは何事だ」
 父さんは勢いよく起き上がり、私に怒号を飛ばす。
 チッ、生きてたか。
 殺すつもりで殴ったんだけど、私も詰めが甘い。

「おい、母さん!
 今の見たよな!
 母さんからも言ってくれ!」
 父さんは母に向かってツバを飛ばしながら叫ぶ。
 だが母さんは、興奮している父さんに静かにほほ笑みかけて――引っぱたいた

「あなた、咲夜は拓哉君の事になると、周りが見えなくなるって知ってますよね」
「え?」
「そして自分に任せろと言っておいて、この有様ですか?
 がっかりです」
「スイマセン」
「私が話します。
 あなたはそこで黙って座っていて下さい」
「ハイ」
 父は、母に叱られてしょんぼり肩を落とす。
 ざまあ。
 私と拓哉の仲を裂く奴は、地獄に落ちればいいのだ。

「咲夜、話の続きだけど……」
 私が心の中でガッツポーズしていると、母さんがこっちを見る。
(まさか、母さんまで『別れろ』と言わないよね)
 内心ビビりながら、母さんの言葉の続きを待つ。

「父さんが言った、『拓哉君と別れる』という話。
 今のままなら本当に別れてもらうかもしれません」
 それを聞いた瞬間、私の体は沸騰したように熱くなった。
「……どういう事?
 母さんでも許さないよ」
「話しを聞きなさい。
 『このままでは』と言ったでしょう。
 短気なところは父さんに似たのね」

 母が私をたしなめるように叱る。
 というか、私が父親似?
 めちゃくちゃ嫌だ。
 これから気を付けよう。

「落ち着いた?
 じゃあ最初から話すわね。
 咲夜、あなたは拓哉君と一緒の大学に行きたい。
 そうですね?」
「うん」
「この前、たまたま拓哉君の両親に会って聞いたのだけど……
 拓哉君の志望校、あなたの学力では無理です」
「あがあ」

 母さんから告げられる衝撃の事実にショックを受ける。
 でも知らなかったわけじゃない。
 拓哉は私より、はるかに頭がいい。
 今まで見て見ぬふりをしていただけだ。

「だから咲夜は、受ける大学を変える必要があるんだけど……」
「待って、そこは愛の力で、なんとか……」
「『愛の力』ねえ」
 母が含みのある笑みを浮かべる。
 てっきり『無理だ』とばかり言われるものだと思っていたから、母の笑みがとてつもなく不気味に見える。

「そうね、おめでとう。
 あなたたちは愛の力で同じ大学に行けるわ」
 母の言っていることが理解できず、ぽかんとする。
 だってさっき私の学力では無理だって……
 まさか――

「拓哉、大学のランクを落とすの?」
 現状、同じ大学に行くにはそれしかない。
 だけどそれは……

「拓哉君のお母さんに聞いた限りでは、変えるらしいわ」
「でも拓哉、夢があるって言ってた。
 受ける大学を変えるっていうのは……」
「そうよ、拓哉君は夢よりもあなたを取ったのよ」
 母の言葉を聞いた瞬間、私の頭は真っ白になる。
 私のために、夢を諦める?
 それは絶対にダメ。

「そ、そんなの間違ってる!
 拓哉は夢を追うべき!」
「母さんもそう思うわ。
 そこでさっきの話に繋がるのよ。
 『拓哉君と別れる』。
 そうすれば、拓哉君は安心して夢を追いかけることが出来るわ」
「そんな……」
 私の頭の仲はぐちゃぐちゃになる。

 別れなければ、このまま拓哉と一緒だけど、拓哉は夢を諦める。
 別れれば、拓哉と一緒にいられないけど、拓哉は夢を叶えることが出来る。
 なんて残酷な二択。
 こんなの選べるわけが……

「そこで、母さんは他の選択肢を提示します」
「え?」
「それは、あなたが今から猛勉強して成績を上げる事。
 そうすれば拓哉君も志望校に行けて、咲夜も恋人同士のまま」
 「いい考えでしょう?」と母は私に笑いかける。
 でもその選択肢は致命的な欠点がある。

「私、控えめにいってバカなんだけど……」
「安心しなさい。
 あなたは一年生。
 塾に行けば、」
「でも追いつけるかな」
「そこは愛の力で何とかするのよ」
 母は笑いながら父の方を見ると、父は恥ずかしそうに目をそらす。

「もしかして、父さんが愛の力でなんとかしちゃった感じ?」
「そうなのよ。 
 あの時の父さん、とても情熱的だったわ。
 聞きたい?」
「聞きたい!」
「その話はいいだろ!」
 これ以上続けると、父が怒りそうなのでこの話題は終了。
 後でこっそり聞いておこう。

「咲夜、拓哉くんの隣にいたいなら頑張りなさい。
 『当たり前』というのは、なんとなくそこにあるものじゃないの。
 努力して手に入れる物なの」
「母さん……」
 母さんの言う通りだ。

 拓哉と付き合う時だって、私が精いっぱいアピールして勝ち取った関係なのだ。
 最初からそうだったわけじゃない。
 なんでこんな大事なことを忘れていたのか
 この関係を変えないために、私は変わらないといけない時が来たようだ

 勉強はちょーーーとばかり苦手だけど、拓哉のためなら頑張れる。
 私の当たり前が、ずっと当たり前のままであるように。
 拓哉と一緒にいられるように。

 それに拓哉に勉強教えてもられば、さらに一緒の時間を過ごすことが出来る
 まさに一石二鳥。
 よーし、勉強頑張るぞ

7/10/2024, 1:38:31 PM