「何度も壊そうとした」
「…何を?」
僅かに聞こえた微かな言葉が耳に入り、聞かずには居られなかった。
「何だと思う?」
ペン回しをしながら問いかけられる。そんなの知るわけが無い。回しているペンでも壊そうとしていたのか。だったとしても人の力で簡単には壊れないと思う。
「心をね、壊そうとしたの」
全くの的外れの答えに開いた口が塞がらない。きっと、今変な顔をしているに違いない。それほどまでに、斜め上の内容で驚いたのだ。
「的外れすぎてビックリしちゃった?まぁ、そうだよね。私とあなたって、今日が初めて喋るし。お互い何も知らないんだからさ」
考えてたことがバレて焦ってしまう。
キミと話すのは今日が初めて。しかも、こんなに面と向かって会うのですら今日が初めてなのかもしれない。それ程までに、キミという存在に出会ってこなかったのだ。 そんなキミが壊したい物が心だなんて。今日であったばっかりだから、関係ないかもしれない。でも、聞いてしまった以上は気になるっというものだ。
「なんで、その…心を壊すの?」
「暗闇の中にいるのが疲れちゃったから」
キミはこう紡いだ。
心の壁。それをずっと感じて生きてきた。
何をするにもその壁が立ちはだかり前には向いて進めない。思考も行動も全てが制御された。
まるで、卵の殻。
少しのヒビで心が割れて崩れていく。
内側からは固くて外には出れず、外からの刺激には脆い。
殻に閉じこもり、外の世界とは拒絶する。
「つまりね、私は暗闇の中で……暗がりの中で1人だったわけ。それは、これを話したあなたがいたとしても。世界から必要とされない私はね、おさらばしようかなって。物語みたいに、めでたしめでたしで、終わるの」
にひひっと笑いながら喋るキミの笑顔は何処か儚いものだった。 本当にキミは消えようとしていたのが分かる。それを止める権利なんてない。人でなしと思われるかもしれないが、キミの決めた事なら尊重すべきだろう。
「だから、止めないでね。私の唯一の汚点は、あなたに聞かれていたことかもしれないな。じゃあ、私はいくね。あなたも早く”答え”を見つけなよ」
これが教室の1番後ろの窓際に座るキミとの最初で最後の会話だった。
「この暗がりの世界で、あなたが壊したいものを見つてね」
10/28/2024, 2:13:08 PM