「一つだけ、あと一つだけ、なあ、頼むよ」
「またそんなことを言って。一体、これで何回目なんでしょうね?」
「こ、今度こそ、今度こそ最後だ、なあ、どうせ持ってるんだろ?」
「うーむ、どうしましょう」
「お、おい! いま、今更渡さないとか言うなよ? わ、私はお前のお得意様だろ?」
「いやね、確かに貴方にはよくうちの商品を買っていただいている」
「じゃ、じゃあ」
「だからこそオレはこれを売りたくないんですよ」
「…は?」
「貴方、覚えてます? オレが最初に言ったこと」
「な——」
「まあ、そんなに必死じゃ覚えてないか…
いいですか? 物にはね、なんでも限度があるんですよ。やりすぎは毒ということです。
水だって、摂取し過ぎれば命を落とす。これだって一緒、このまま使用を続ければ貴方は確実に壊れてしまうでしょう。お得意様が使い物にならなくなれば、こちらだって損が生じる。」
「そ、そんなの、
そんなのお前の都合だろっ!
……ふざけるな。
……ふざけるなよ!
お前の! 都合なんて知ったことか!
出せ、早く出せよッ!!」
「人の話は最後まで聞く物ですよ、先生」
「っ…」
「なぁに、オレは意地悪をしにきたわけではありません。 ただ、一つ提案をしにきたんです。
先生、新しい商品に興味はおありで?」
「…」
「沈黙は肯定とみなします。うちのボスの方針なんです。
最近、うちの開発部が新しい商品を開発しましてね、体へのダメージは前のものより軽減、でも効果は前より強く、長く効きます!」
「…そんなものが」
「はい!
実は…… 本日、なんと! たまたま! 新商品のサンプルを持っているのですよ!
よかったら差し上げます。 無料で」
「…あ」
「では先生、また来ます。 次もまた、金曜日の深夜に。 その時までにお返事を考えておいてください。 今後とも、よろしくお願いしますよ」
「おや、貴方、うちの商品に興味がおありで?」
「おーい、無視はひどいなぁ。」
「貴方ですよ、貴方、先ほどオレたちのやりとりをずぅっとみていたでしょう?」
「残念ながら、サンプルはもうないんです。
だから、また金曜日の深夜にお会いしましょう。」
「あ! そうだ、オレから一つアドバイスを」
「あまり盗み聞きはするもんじゃないですよ
——見せもんじゃねえんだぞ」
「……それでは、おやすみなさい」
4/3/2026, 3:39:07 PM