紅茶の香り
──某所、何処かの通りのカフェにて。
「あれ、お前紅茶好きじゃないっけ」
彼はテーブルの上に並んだティーカップを覗いてそう言った。彼の方にあるティーカップはとっくに空になり、乾いてきていた。
一方で私のティーカップはほとんど手を付けられずに温くなっている。
「ええ、少々匂いが……好みではなくて」
「そう? コーヒーよりかはいい匂いだと思うんだけどなぁ」
そう言うと彼は私の方のティーカップに徐ろに手を伸ばし、ぐぃっと一気に飲み干した。
温かったのが気に入らなかったのか眉をひそめ、カチャンと音を立ててソーサーに置いた。
「やっぱ淹れたてが一番だ。アイスも悪くないけど」
品に欠ける行いが似合ってしまう彼は、テーブルに伏せてあった本を取った。
「そう言えば、この本にもあったけどコーヒーってほんとに美味しいの? 俺には分からん。苦くてさ」
「ミルクか砂糖を入れてみては?」
「入れたけどさ〜……なんだろ、鼻に残る匂いが苦い」
「そうでしょうか?」
彼は匂いを思い出したのか、また眉をひそめた。
「匂いと味がなんとかなれば飲めるのに……あと色」
「それはもはや違う飲み物ではないでしょうか……」
「お前も匂いが変われば紅茶飲めるでしょ」
「いえ、あの独特の風味がまた苦手でして……」
何の気無しに、ふと目があった。
お互い何処か気が合わないと思っていた。だが、思わぬところで、似たような要素を持っていたのが可笑しかったのか、二人は思わず笑ってしまった。
「ね、やっぱり俺ら気ぃ合うよ」
「ふふ、そうですね」
10/27/2024, 10:40:11 AM