夜汽杏奈

Open App

「日常」

中世の城が遠くに見える草原
馬に乗って現れた男性が
紫色の花を握りしめている
目の前の小さな川を見つめ
いつか私が現れる方向だけを
気にしながら
長い間待ち続け
枯れた花を捨て
それでも一切の涙は見せず
慈愛に満ちた瞳で
待っていた

眠りから覚めた時
ごめんね、となぜか呟く
夏の終わりの夜風が
城のあるおとぎの国の空気に似ていた

ノンアルコールビールを飲む貴方は
照れたように下を向き
私を見ずに小難しい芸術の話をする

象の目も敵わない優しい瞳と
芯は強いであろう瞳と
未来という名のペンを持つ手
繊細で器用な上手な文字
ガラスのように見えるけど
実はダイヤモンド級の強さを合わせ持つ
日常の中の貴方

変わらない日々
どれだけおとぎの国の夢を見ても
誰かが私をずっと待っていたとしても
枯れゆく紫の花を持つ手なのか
明日を描くペンを持つ手なのか
ただそれだけの違いで
その私を見る瞳も同じだった

次の夢を
もう動かない錆びたメリーゴーラウンドの馬に
設定して眠ったとしても
そこに登場する誰かは
腕も瞳も空気の匂いも同じだった

夏の終わりの虫の声は
いつしか宇宙まで流れ
馬の鳴き声も昴に届き
どこかで混じり合う
輝く星も太陽も低音の声も全てが
その腕と瞳だった

執着やエゴを捨て
宇宙より大きな愛だけを信じた
例え目に見える日常が変わっても変わらなくても

この想像界の中で
私はこれからもずっと
力強い腕と優しい瞳のある
大きな愛の中で
優しく包まれている

不滅の愛が花言葉の紫の花は
もう枯れない
いつか必ずそこへ行き
花を受け取ろう
もうそろそろ
私の愛も信じて

愛に溢れたおとぎの国も
愛に包まれた日常



6/23/2023, 9:35:31 AM