Nissi

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 ページをめくる。

 図書館の中では静けさが保たれていた。誰もが声を発さずに黙々と本を読む。私もその一員だ。
 私は少し薄めの本(決して卑猥ではない)を読み進める。ここでは、あまり多くの時間を費やし本を読まない。長時間に渡って本を読むのもいいのだが、家で読むほうが集中できる、いや自分の世界に没頭できるのだ。
 では何故ここで本を読むのか。そうだな·········耳を澄ませてみよう。静かな図書館にも音が潜んでいる。足音、本をめくる音、壁に遮断されているが貫通する雑音。それは不協和音ではなく、自然の中のある───水のせせらぎや木々の揺れ擦れるような───心地の良い音だ。つまりは私にとってこの図書館は大自然そのものでありその環境音を聞きにわざわざここに来るのだ。

 ページをめくる。

 そして私もその一人となり、沈黙の中、不意にそれらと一緒に音を奏でるのである。

9/2/2025, 12:25:56 PM