『耳を澄ますと』
耳を澄ますと聞こえてくる。
——地獄から響く友人の聲が。
○○○
死ぬ前の言葉というのは、特別だ。
それはお守りにもなるし……呪いにも、なる。
最期、その人が人生を掛けて“何を”伝えたいか。
「助けてー!!」
その声に頭より体が先に動いた。
目の前のひったくりから、女性物のバックを取り上げて、走るひったくりの男性の足を引っ掛けて転ばした。
「大丈夫ですか、お嬢さん。もう平気ですよ、ほら」
「あ、ありがとう……!」
……人助けをするのは、もうこれで何度目だろうか。
薄っぺらい笑みを貼り付けて、俺は被害者に笑いかける。
——人を救う気なんぞ、一欠片も無いくせに。
『なぁ、兄ちゃん。オイラの代わりにヒーローになってよ。兄ちゃんはスゴいから、きっとすげぇヒーローになれる。悪役よりも、誰かに慕われる方がずっといいや』
俺の性分は、ちんけな詐欺師だ。
オレオレ詐欺とか、ネズミ講とか、結婚詐欺とか、そういうので小銭稼ぎして、汗水垂らして働かずに、楽に暮らしたい。
ただ、それだけの、野望もない、ずる賢いだけの小悪党。
……なのに、なんで、こんな、無償の人助けなんてしているんだか。はぁ。
死んだ眼で空を見上げた。
空は青かった。俺の荒んだ心とは引き換えに、どこまでも高く自由に、青く澄んでいた。
耳を澄ますと、聞こえてくる。
——地獄から響く友人の聲が。
人を助けろ、と。ヒーローになれ、と。
まるで、呪いだ。人生をかけた、呪いなのだ。
だが、その呪いに俺は生かされている。
「すいません、助けて下さい!!」
「はいはい、次は何ですかね〜?」
「一週間後に渋谷全体が爆破されるんです! 防ぐために、協力して下さい!!」
「…………は?」
これは、正義感のない詐欺師と、正義感だけで動く“予知能力”の美少女の話。
渋谷を爆弾魔から守るための、お話だ。
……続かない!
おわり!!
5/4/2026, 8:53:53 PM