「笑うなんてばかみたいだ」
ぽつりとこぼした言葉は届いていたらしい。
広げていた本から目を離した彼女は、膝歩きで隣まで来る。
「スマイルってゆっくり言ってみて」
眉を思い切り寄せても彼女に効果はない。いいからと促される。
その言葉に騙されて、一文字ずつ、嫌になりそうなほどゆっくり言ってみる。
『イ』と言い始めた時、彼女の手が僕の両頬に触れる。
撫でるような仕草はほんの少しだけ、めいいっぱい引き伸ばされた頬をさらに斜め上に引き伸ばした
「ほら、今のきみは笑ってる」
正直何を言ってるか分からなかった。
文句を言いたくても口が言うことを聞かない。おまけに頬が痛い。
笑ってるのなんて、君だけでいいのに。
目で訴えても、君はただ嬉しそうに笑うだけだった。
――スマイル
2/8/2024, 12:10:40 PM