シオン

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「二月です」
「…………?」
 図書館のいつものスペースでウィルは本を用意してサルサの隣に腰掛けるとそう言った。
 サルサはその言葉に首を傾げながら言った。
「……でも、一月は三十一日までありましたよね……?」
「私たちの世界は人間界と年始のタイミングを合わせてるだけなので三十日までの十二ヶ月と、残り五日は十三月になります。……言いませんでしたっけ」
「……言われました。そうか、じゃあもう二月なんですね」
 サルサは納得したように頷いた。が、ウィルは表情を険しくしながら言葉を続ける。
「……つまり、貴方が来てから一ヶ月が経ったわけです」
「………………あ」
 人間界においても言えることではあるが呑気に生きているとわりと月日が過ぎるのは早い。普通の人なればその速さに焦ることはあろうとも、そこまで緊迫感というものは存在しないが、サルサの場合はあまりそう言ってもられない。何故なら一年、つまりは来年の一月一日までには一人前と称される部類になっていなくてはならないからだ。
「……進みはいい方なんですか」
「…………遅めです。これはサルサのせいではなく、完全に私のせいなのですけれど」
 ウィルは目を伏せながらそう呟いた。
「頻繁に休みの日にしたり、リフレッシュの時間を挟んだり、復習に一日を費やしたり……。覚えるのには非常に効果的だったかもしれませんが、進捗としては悪い。なにせ、覚えることが多いので」
 困ったように、そして申し訳なさそうに言葉を絞り出したウィルに対してサルサは何か声をかけようとしたが、その口を閉じる。
 静寂が少しの間、図書室を支配した。それを作り出したのはウィルだったが、それを破ったのもウィルだった。
「……全く芳しくはない状況ではありますけどね。まぁそこまで悲観的になるほどでもありません。あと十一ヶ月は丸々残っているので、まだ巻き返せるタイミングはいくらでもあります」
 ウィルはそう言いながら外を見つめた。
「まだ、この世界を舞台にした『旅』も始まったばかりなので、そこまで困らずに行きましょう」
 ウィルは呟きながら少し恥ずかしそうに微笑んだが、サルサは困ったような顔をした。実際的にピンチであろうことは彼の目にも明らかではあったからだ。
 そう思ってることはウィルにも読み取れたようで少しだけため息をつきながら優しく微笑んだ。
「……そう悲観的にならないで下さいね。そろそろ実践にも移りながら座学も進めるので少々サルサさんにとっては苦痛なものになる可能性もありますが、頑張ってくださいね」
「が、頑張ります……!」
 サルサはそう言いながら大きく頷いた。
「ということで今日は先月の復習です。五分後にテストしますね」
「……ええ!」
「ふふ。今日はテストと復習と新しいこと、全部やりますからね」
 ウィルは楽しそうに笑った。

2/1/2025, 12:35:07 AM