「最悪」
……ついにこの時が来てしまった。
ありもしない容疑をかけられて事情聴取を受けることになってしまったこのボクは!このくらいじゃあへこたれないよ!
とはいえ、墓穴を掘るようなことを言ってしまわないか不安なのは確かだ。
だが!ボクには完璧なデータ、完璧な証人、そして完璧な証拠品があるから心配ない!!!
大丈夫……心配ない、心配ないよ。
ボクのコードネームが呼ばれ、入室を促された。
01100001 01101110 01111000 01101001 01100101 01110100 01111001
「公認宇宙管理士第294001番 コードネーム『マッドサイエンティスト』、あなたがここに呼ばれた理由はご存知ですね?」
「……その呼ばれ方はあまり好きじゃないなぁ。」
「説明は聞いている。ボクには旧型の宇宙管理機構の一部を不正に持ち出し、管轄内の第712宇宙を破壊しようとした、という容疑がかかっているのだろう?」
「その通りです。今回はこの事件に関するあなたの動向を詳しく話していただくため、ここにお呼びしました。」
「あなたはこの事情聴取を2時間で終えることを希望されているようですね。なるべくご希望に添えるようにいたします。但し、我々の指示に従って頂くことを条件とします。」
「それは百も承知さ。」
「それでは始めましょう。」
「まずは、事件が起こった頃、あなたはどこで何をされていたのですか?」
確かあの時は───あれ?ボクの行動履歴にアクセスできない。データとボクの記憶がきっちり合っているかを確認する目的なのだろうが、ボクはちゃーんと覚えている!
「あの頃は第95021宇宙がかなり不安定な状態にあったから、該当宇宙へのエネルギーを追加していた。もちろん、他の宇宙の様子を見ながらの作業だが。」
「そして今年の2月だったね……。第712宇宙の質量が明らかに『介入された』であろう減少傾向を見せたから介入することにしたのさ。」
「なるほど。ここでひとつ疑問視すべき点を述べます。」
「第712宇宙の質量減少にもっと早く気付くことはできなかったのですか?」
「確かに、少し前からその兆候は見られた……が、介入できるほどの減少ではなかった───つまり、自然に起こる増減の範囲内だと判断したわけだ。最初は、ね。」
「キミもご存知だろう。公認宇宙管理士基本法第3章のはじめの』公認宇宙管理士は無闇に宇宙に介入するべからず』という文面を。」
「明らかな異変だと判断できない限り、ボクは無闇矢鱈に宇宙に手を加えるような真似はしない。ボクはただ法律に従ったまでさ。」
「キミもボクの解析済みデータをお持ちだろう?そのデータと第712宇宙の質量増減のデータを照合すれば、整合性のある判断だと導き出せるはずだよ。」
「なるほど。のちにデータを詳細に確認いたします。」
「頼んだよ。」
「次にお聞きするのは、あなたの『感情』です。」
「ちょっと待ってくれ!」
「キミは感情を理解できるのかい?現時点で感情を理解でき、事情聴取を行える公認宇宙管理士はいなかったはずだが!」
「はい。あなたのおっしゃる通り、私は感情を理解することができません。ですが、データに変換された『感情』の強弱であれば読み取ることができます。」
「だからそこに感情を表示するモニターがあるわけだね。」
「んで、事件前後の感情だが、ボクの愛する宇宙が何者かによって縮小の一途を辿っていることに気づいた時、それはそれは『悲しい』ものだったよ。」
「と同時に、宇宙を縮小させる原因に対する怒りも沸いた。宝物が壊されるのをただただ見ているだけではいられない。そう思って宇宙に介入したのさ。」
「それから、感情についてもう一つお聞きします。一ヶ月ほど前の『怨念』について説明してください。」
「あの怨念は、宇宙を吸収した旧型宇宙管理士がボクに抱いたものだよ。キミには馴染みがないだろうけれど、かつてよく使われていたクラッキングの方法を使われたのさ。」
「特定の感情を大量に相手に送り込んで処理落ちさせる手法を使われたわけだ。彼女……宇宙とそのエネルギーを吸収した存在が宇宙エネルギーを怨念に変換し、それをほぼ全てボクに突っ込んだのさ。」
「そんなことをされたら、並大抵の管理士じゃあ耐えきれずに壊れてしまうだろうね。たまたまボクが丈夫だったお陰で事情聴取も出来ているわけだが!」
「それから、逆にこちらから聞いてみよう。もし仮にキミが宇宙を破壊するために旧型の管理士を持ち出したとする。」
「その時、旧型管理士をどう扱う?」
「意図が分かりかねます。」
「そうかい。それじゃあ聞き方を変えよう。」
「感情のある相手から怒りを買うようなことをするかい?」
「いいえ。私であれば、感情のある相手に対しては敵意を持たれないよう、出来るだけ友好的に接します。」
「そうだろう?」
「仮にボクが旧型管理士を盗み出したとして!そんな大量の怨念を送り込まれるような真似を!ハイリスクなことを!するわけがなかろう?!」
「あ、この状態のボクを診てくれた整備士がいるから、もし疑問点があればそっちに聞いてくれたまえ。」
「なるほど。理解しました。」
「それでは、最後にお聞きします。」
「あなたが『盗み出した』とされている旧型宇宙管理士は、現在どこに存在しているのですか?」
「ああ、彼女なら第712宇宙付近にある特殊空間内にいるよ。」
「万が一の事態に備えて、今その空間にはボクしかアクセスできないようになっているが、捜査のために解放しよう。」
「それとも、彼女を起こしてここに連れてきた方がいいかい?」
「いいえ。あなたを完全に信用したわけではありませんので、事情聴取の最中はこの部屋にいていただきます。」
「分かった。……見えるかい?この空間内部に該当する旧型宇宙管理士がいる。念のために眠らせている───事実上の凍結状態にしているよ。」
「それから、彼女の作った空間も付近に存在している。こちらも凍結させてあるが、証拠として使えるのならば見るといい。」
「ありがとうございました。以上で本日の取り調べを終了いたします。第712宇宙にて、続報をお待ちくださいませ。」
「こちらこそどうもありがとう。良い知らせを待っているよ。」
こうして事情聴取は終了した。
……これで最悪の事態は免れることができるはずだが!!!
彼らがどのようにボクとデータを判断するかにかかっているからなんとも言い難い!!!
頼むからボクを完全に自由の身にしてくれたまえ!!!
6/7/2024, 10:45:36 AM