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 魔力の粉が混ぜられた、世界に数セットしかない特別な絵の具。その特別な絵の具で描かれた絵に、付属の専用ニスを使うと、その絵に生命が吹き込まれる。
 植物の絵も、動物の絵も…人間の絵でさえも。

 そうして生まれた存在の一人が、あたし。

 でも、あたしにニスを塗ったのは、あたしの画家じゃない。あたしの画家が描いた、別の人間達だった。
 あたしの画家は、あたしが目覚めた時にはとっくに死んでた。アトリエの奥に、静物画に混ざってあたしが置かれてて、だからずっと誰もあたしに気づかなかったらしい。
 ニスを塗られる前の記憶は無いから、あたしの画家がどんな顔で、どんな声で、どんな人だったのか、あたしは知らない。

 でも、そんなのどうでもいい。知る気もない。

 あたしのキャンバスの裏に貼られてた、新聞の切り抜きに…あたしと同じ顔の女の子がいた。他の人間達のキャンバスの裏には、なにも、貼ってなかったのに。

 あたしはモノマネ。静物画と同じ、モノマネ。
 あたしの画家は彼女を描いただけ。あたしを描いたわけじゃない。
 でもきっと、新聞の子は…あたしみたいに、ひねくれてなんてない。

 あたしは、モノマネできないモノマネ。


(「みらみゅーじあむ」―シェーレの令嬢―)

11/4/2024, 12:31:27 PM