Ray.O@創作

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【好き嫌い】

「かわいい」が好きだ。
フリルにリボン、キラキラのラメにスパンコール。ふわふわのぬいぐるみに、とびっきり甘いパンケーキ。
胸が思わず高鳴るような、愛すべきものたち。

しかし、どうやら「かわいい」にはいろいろな制限があるらしい。そして、どうやら自分は、適応外らしい、と言うことも成長するにつれてだんだんわかってきた。
確かに、似つかわしくないと言われるのも無理はない。自分がかわいいが似合う子だったなら。鏡を見るたびに、ため息が出た。

あるとき、そんな子に出会った。ふわっと巻かれたボブに、くりっとした瞳。細い指に、小さい足。優しい声、ゆったりとした言葉。お姫様がもしこの世界にいるならば、こんな子なんだろうと思った。
かわいい、が許されている存在。かわいいに囲まれている彼女を、ずっと羨ましいと思っていた。

「私、こーゆーの嫌いなんだよね」

それは、文化祭の前日の放課後だった。舞台の裏で、用具係であった自分に、ぽつり、と彼女は投げかけた。
本当は、パフェよりコーヒーが好き。ガラスの靴よりスニーカーがいいし、かぼちゃの馬車なんかじゃなくてハーレーで駆け回りたい。そうつぶやいた彼女は、なんだか弱々しく見えた。

「好きなものを好きって言ったらダメなの?」

言うつもりはなかった。けれど、不意に口をついて出てしまった。ありがとう、と小さく彼女は驚いたように、そして笑って見せた。

彼女は今、どうしているだろうか。
あの日の言葉は、自分に向けての言葉だったのかもしれないと、今でこそ思う。別に、あの子になりたいわけじゃないし、女の子になりたいわけじゃなかった。
ただ、かわいいものが好き。かわいいものを愛している。周りにどれだけ嫌われたって、好かれなくたって。そんなこと関係ないと、今なら言える。

行きつけのパーラーで、いちごたっぷりのパフェを頼む。ぬいぐるみに囲まれて眠る。
世界中の誰に嫌いと言われても、俺は俺の好きを生きるよ。

6/12/2024, 3:08:36 PM