『たくさんの想い出』
面白半分に撃たれた傷が今も疼く。傷が痛むということはまだ生きてはいるということになるが、いつまで保つものか。
街にいたやつらの半数は兵隊たちに収容所と呼ばれる所に集められ、俺のように召集から逃れたり、隣一家のように隠れたりしたものは捜索と称した家捜しによって狩られる対象となった。物陰で兵隊をやり過ごしていた俺は隣家から銃声を何発も聞くことになってしまった。まだ小さな子もいたはずだ。それにその親も。
兵隊の気配が去ってから痛む体を引き摺って隣家へと向かう。金目のものが持ち去られ、荒らされた部屋に一家4人は寄り添わされて血の海に倒れていた。女の子はお人形が大のお気に入りで、親に買ってもらったと言って見せに来るほどだった。男の子は虫好きでよく草むらにしゃがみ込んでは熱心に観察していた。まだ年若い夫婦は貧しいながらも俺を夕食に招いてくれて良くしてくれていた。
かつて夕食を囲んだ食卓。部屋に残る写真。家族の想い出の品ばかりになったそこは踏みにじられ、新たな想い出が紡がれることはない。
遣り場のない怒りで傷の痛みが増してくる。これはきっと家族4人の怒りなのだろう。血の海から人形を掬い上げた俺はそれを胸にそっと抱き、復讐を決意した。
11/19/2024, 5:45:14 AM