好きだ。
それは人間としてなのか、恋愛対象としてなのか、それともただの憧れなのか、執着なのか、恋愛経験のない私には分からなかったけど、とにかく好きなのだ。
その人のことを考えれば、自然と微笑んでしまうほど。
一緒に撮った写真や画面越しにやりとりしたログを見ていた私に、「なに、嬉しそうな顔をして」と家族がからかい気味に声をかけるくらいに。
世の中ではあまりにありふれていて、そこらの歌詞に軽々しく使い古されている“好き”という言葉が果たしてこの想いに適切かも分からないほどに、好きな人が私にはいるのだ。
人生を変えるほどの想いは言葉にできないから、人は表現しようとするのだと思う。
そんな想いすらも人はわざわざ、想いを言葉の型にはめて長ったらしく架空の物語を書き、目覚めるような色彩や歪んだ図形という型にはめて絵を描き、記念日なんていう型をわざわざ生み出してプレゼントをこさえ、人間とはかけ離れた命である花にさえ、言葉の意味を紐づけようとする。
そんな愛しくも愚かしい人間の欲望に、例に漏れず私も引き摺られていた。
目の前にはすっかり溶かし切ったチョコレート。
お湯をたたえたひと回り大きなボウルの中に、ちょこんと浮いた、チョコレートいっぱいのボウル。
大人たちの血の滲む企業努力によって、すでに美味しくできていたはずの既製品をわざわざ溶かしてしまうなんて、私らしくない。
でも、私はチョコレートを溶かし、型を用意する。
仕方がないのだ。私も人間なのだから。
愚かな人間である私は、言葉にできない溢れそうなこの想いを、そっとしまってはおけないのだ。
人間らしく、言葉にできなくても、それを型にはめて、形にして、伝えようとせずにはいられないのだ。
私はチョコレートを型に流し入れる。
型はみるみるいっぱいになる。
「I LOVE...」
あまりにもありきたりすぎて、笑ってしまうような型に、市販品を溶かしただけのチョコレートは、流れ込んで、流れ込んで、流れ込んで…
やがてトロドロと溢れ出る。
チョコレートは型の側面にトロリとした線を書き、やがて型の下に敷いたバッドに落ち、銀のバッドを侵食していく。
私は、バッドを茶色く染めゆくチョコレートを眺めながら小さく呟く。
それがどんな想いか知らぬまま。
「I LOVE...」
1/30/2026, 8:44:04 AM