「あ、れ…?」
気づくとそこは白の箱。
つん、と独特の苦手な香りが鼻を突く。
思うように動かせない身体をなんとか起こして、そこがカーテンで仕切られた病室であると知るのと同時に、ずき、と痛んだ頭。
「ん、んん…?」
一瞬だけ脳内に流れ込んできた映像に、首を傾げる。
まるで白い靄がかかったようになにも思い出せない。
「___優…っ!」
ガラッと乱暴に音を立てた病室のドアに視線が向かう。
医者から記憶喪失だと診断されて、間もなくのことだった。
「優、目覚めたんだね…っ。よかった…」
僕の知り合い、だろうか。
糸が切れたようにポロポロと涙を流す彼に、どくん、と心臓が脈を打った。
でもそれは一瞬で、次のときには申し訳なさで胸が一杯だった。
「…優?」
僕の異変を感じたらしい彼が震える声で僕の名前を呼ぶ。さっき医者に教えてもらったばかりの名前。
ごめんなさい、記憶喪失で、と紡ぎかけて、唇が震えていることに気がつく。
そして、僕の頬が濡れてることに気がつく。
「…あ、れ…?」
僕は…なんで泣いてる…?
「…優、もしかして、俺のことわかんない…?」
混乱するなか、小さく頷いた。
涙は止まない。
「…そっか、じゃあ、はじめましてだ」
ああ、知ってる。
この頭の回転の速さ。
僕がなんで泣いているのかすら分かっているんだろうなって思わせてくるこの空気感。
彼のことは分からないはずなのに、なぜか、なんでか、また会えた、と脳のどこかで呟きが木霊する。
震える唇のまま言葉を紡いだ。
「はじめ、まして」
はじめまして 創優 #203
4/2/2025, 4:23:22 AM