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いつからか、君の目は僕を識別していないのだと気づいた。というのは、僕の顔には生まれつきの大きな痣や瘤があり、誰もがぎょっとしてみせるその生々しさに君がちっとも反応しないからだ。

幼い君の、いわゆる「お世話係」としてこの家に雇われたのはいいが、人目を避ける夜だけの勤務だ。
薄い月明かりに照らされるのも、惨めな気持ちにさせられた。

仕方がないこととはいえ、自分は影の中で生きるしかないのだと。

初めて出会ったときから静かにベッドに横たわっていた君は、あまり身体の丈夫そうな印象ではなかった。白い珊瑚のように痩せ細った身体が痛々しくて、僕が姿をみせると、ほんのりとはにかんでみせていた。

「プリンセスのお城がみてみたい」

ある夜、いつものように絵本の読み聞かせを終えたあと君は僕に控えめに呟いた。

恐らく外出もできないのであろう、君から聞いた初めての願いだった。

僕は質素な部屋を見渡して、彼女のベッドの脇にあった荷物や置物を寄せ集める。ごちゃごちゃとした物体ができあがったが、部屋を暗くする。

「これでどうだろう」

窓から青い月明かりが差し込むと、確かにそれは城らしい形となって壁に浮かび上がった。

さすがにまやかし過ぎただろうか。でも、君の小さな唇から感嘆の息が漏れたのを僕は聞いた。


「私のお部屋に、お城がある。」


君の夢見た城の正体はガラクタなのに、それがたとえまやかしの姿であれ、君の瞳は真実を見据えてきらめいている。

壁の城と写る君と僕の影も、どちらがどちらか区別のつかないほどよく似ていた。

僕は何も言えなくて、頬の痣に手をやった。


『影絵』

4/20/2025, 9:59:33 AM