薄墨

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黄色く分厚い皮を割る。
包丁で切れ込みを入れたところを広げて。

酸っぱい香りが、ふわっと立ち上る。
ゆずの香り。
果物の甘さの中に、強く酸味のフレッシュさが香る、あのゆずの香りだ。
それだけでなんか嬉しくなる。

ゆずを割る。
今日は、休日。私にとってはゆずの日だ。
たくさんもらってしまったゆずを加工する日。
しばらくうんざりするほどこの香りを嗅ぐことになるだろう。

ゆずを小さく分割していく。
ゆずを使う料理って何があるだろう。
とりあえず、保存の効きそうなジャムやゼリーは作ろうと思うのだが…そのうち飽きそうな気がする。

ため息をついて、傍に積んであるゆずの山を見る。
なぜこんなにゆずをもらってしまったのか、私は。
旬の片田舎で、たくさんもらう機会があったにしても。
これでは冬至が来る前に、ゆずの香りにうんざりしてしまいそうだ。

ゆずを割りながら考える。
なぜ私はこんなにも見境なくゆずを集めたのか…

そういえば、小さい頃、柑橘系は好きだった。
特に大きいやつ。
親にせがんで剥いてもらって食べるのが好きだった。
やれやれと呆れながらも、大人が自分の前で、果物を割ってくれる。
その時に立ち上る酸味の強力な甘酸っぱい香りが好きだったのだ。

だからゆずを受け取る時、妙にワクワクしたのだろうか。
ゆずの香りを分割しながら、そんなことを考える。

しかし、ゆずはそのままではとても食べられないすっぱさをしている。
せめて食べられる文旦だったら良かったのに。
自分の性質を自分で恨む。

自分にうんざりしながら手を動かす。
ゆずを細かく割り終わって、ボウルに入れる。
二つ目のゆずに手を伸ばす。

あんなにうんざりしてたのに、やっぱりゆずを手に取る瞬間は、根拠なくワクワクした。

12/22/2024, 10:47:25 PM