皺
山脈のような手だった。きめ細かな皺が生き生きと根を張るように全身に伸びている。
おばあちゃんの手が好きだ。
小さい頃にあれやこれやと指を指してもらってはものの名前を覚えた記憶がある。
私は生粋のおばあちゃん子であるので、おばあちゃんよりもとても身長が高くなった今でもソファに寝そべってはよく撫でてもらう。
おばあちゃんの水を弾くような皮が張った手は、触っても擦れるだけで、そこにはわずかな心地よさしかない。
しかし私の頭を下から上へと撫でる手の感覚にひどく重さを感じた。
同時に、その重みと無意識の甘えがでるこの時間にまたひどく落ち着きを感じていた。
うつらうつらとしながら語りかける。学校のこと、部活のこと、文章のこと。
祖母は昔小説を書いていたらしい。井上ひさしに一度文章を褒められたという話をうんと自慢げに、私へと言って聞かせた。
暫くして私が
「おばあちゃんは、また文章は書かないの?」
と尋ねた。その時の遥か遠くを見つめた祖母の目をよく覚えている。リビングの扉よりも、またその先の玄関よりも遠く、亡くなった曽祖母よりは近いところ。
少し掠れた呟くような声で
「おばあちゃん、もう疲れちゃったからねえ。人生に。」
と、そう答えたおばあちゃんの手はまだ脈々と生が流れておりまた負けないくらいの皺があった。
そしてその後から、私はおばあちゃんの手を見るたびに少し違った寂しい予感を感じさせられるのだった。
3/11/2026, 9:36:09 PM