【街の明かり】
昔、若い頃まさしく青春時代のころ、東京に住む叔母の家を拠点にして都会の雰囲気を楽しんでいた頃があった。せいぜい5日くらいなので本当にお遊び感覚だった。
夕方、叔母の家に戻る電車の中でいつも感じていたのは都会の夕暮れの寂しさである。ネオンやビルの灯りなど、これでもかというくらい街の明かりは煌々と光っているのに寂しく感じていた。
私が一度も離れることなく住んでいたのは本当の田舎、夜は漆黒の闇のような田舎だったのに寂しさを感じたことがなかった。
楽しい時を過ごし叔母の家に帰る1日の疲れだったのか、もっと遊びたいのに帰らなければならない寂しさだったのか。
時は流れて…
ひとりしかいない子どもが進学のため住んだこともない、行ったこともない初めての土地で一人暮らしをすることになり、準備のため一緒にその土地へ行った。用意もすんで子どもひとりを残し帰路の新幹線に乗った。そのとき車窓から見る街の明かりにどうしようもない寂しさを感じ、景色を見る振りをしながらあふれでる涙を拭き続けていた。都会よりもくらい街の明かりなのに、どうしようもなく寂しかった。
そのとき感じた寂しさは若いとき都会の夕暮れの街の明かりに感じた寂しさと同じことに気づいた。
街の明かりに感じる寂しさは結局、自分自身の心の寂しさだったのだ。街の明かりに私の心が映っていただけなのだろう。
今はひとりで遠くに行くことも少なくなったが新幹線でローカル線に乗り換えるとき、時折寂しさを感じる。その寂しさは街の明かりに感じる寂しさではなく、お出かけして楽しかった非日常の世界から、姑や夫がいるところへ帰る寂しさだと思っている。
7/9/2023, 10:00:27 AM