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職場の自動販売機には、ブドウ味のジュースが2列陳列されている。元々一列だったのだが、僕が決まってこのジュースばかり買うのでみかねた販売員が在庫を増やしてくれたのだと僕は推測している。
しかし僕はこのジュースが殊に好き、という訳ではない。ただこの甘ったるい飲み物を口にする度、僕はある夏の日を思い出すのだ。

それは僕等が高校生の頃だった。
地元の小さな祭りが開催されている夜、突然君から連絡が入った。
それは普段あまり話さない派手な性格の友人に気圧されて祭りに来たものの心細いから、今から来てくれないかという誘いだった。
僕はあまりに急な誘いだった事と、一人で気を揉んでいる君を想像すると少し可笑しかった。そしてすぐさま家を出た。

それから僕等と他の友人たちはしばらく一緒に祭りを楽しんだ。幾つか出ていた縁日を廻り、ご老人ののど自慢大会と化したカラオケ大会に勝手に批評を加えたりした。僕等は自由だった。
途中で喉が渇いたので何か飲みたいと思い、地元の小さな商店の横に設置された自動販売機に向かった。冷たい飲み物の入ったそれには、煌々とした電気に寄ってくる小虫を捕まえるために構えた蛙がびっしりとついていた。蛙に対して恐怖心を抱かない僕は平気で近くへと向かったが、君と他の友人は離れてその様子を伺っていた。僕はなんとなくブドウ味のジュースを選んだ。ボタンを押すと、ジュースの缶が落ちる振動で蛙たちが一斉に飛び跳ねた。流石に驚いた僕は間抜けな声を出した。それを見て君は酷く笑った。
一口飲んだそれは思っていたより甘かった。僕の隣に来た君は「一口ちょうだい」と言うと自然な動作で僕の手から缶を取り、グッとジュースを飲み込んだ。「美味しい」と笑い、缶を僕の手に握らせた。
その後、少し離れたコンビニで手持ち花火を買った僕等は君の家の前で花火を楽しんだ。めいめいに振り回し、飛ぶ火の粉にきゃいきゃいと声を出して笑った。
やがて家に帰ってきた君の弟とその友人も含め、なかなかの大所帯で花火を楽しんだ。夢みたいな夜だった。


今日も仕事の合間にブドウ味のジュースを買った。隣に君は居ないし、一口飲むと今の僕には甘すぎた。ただ次に選ぶ飲み物も、きっと決まってこのジュースだろうと思った。

5/9/2023, 12:02:04 PM