暖かな春が過ぎて…暑い暑い夏が過ぎて…風が冷気を帯びる秋が来て…冷たい空気の、冬が来た。
私の身体は良くも悪くも気温に敏感で、気温によっては外に出れる時間が限られてしまう。けれど冬なら、ほとんどの日は朝から晩まで外にいられる。
そうして、彼が…私の大事な人が来たら、私がいの一番に出迎えるの。
外は、雨音のしない雨が降っていた。ミストシャワーのような、肌当たりの優しい雨。
いっそのこと、雪になって降ればよかったのに。
…ううん、やっぱり、雨のままでいい。
だって、彼が来たのがすぐに分かるもの。彼が来れば、こんな雨はすぐに粉雪に変わっちゃうんだから。
口重で、少し無愛想な、氷属性の力を持った彼。冷たい人に見られがちだけれど、本当の彼はとても温かい。
私の体質を理解してくれて、いつも彼の方から私のところへ来てくれる。煙草を吸ってるらしいけれど、私の前では絶対に吸おうとしない。私が暑さにやられているときは、氷の力で冷気を生み出して私を楽にしてくれた。
最後に会えたのは、何年前だったかしら。
彼の仕事が死と隣り合わせなのは、重々承知している。
でも、彼はそんな簡単に死ぬ人じゃない。だって、手加減をした状態でさえ、あんなに強いんだもの。
それに、元から彼と会えるのは不定期だったし…不定期だからこそ、彼との時間がより一層 温かいものになる。彼が帰った後も、次に会える日を夢見ていれば、心は寒くない。
雨は、相変わらず雨のままで。
強くも弱くもならず、相変わらずの優しさで、私を包み込んでくる。
いっそのこと、雪になるか、もっと強い雨になって降ればよかったのに。
私の心が寒い理由を、寒さのせいにできないじゃない。
(「精楽の森」―精楽 氷音―)
11/6/2024, 1:01:40 PM