【冬になったら】
まるでオブジェのように聳え立つ無数の樹氷。太陽の光が雪原に反射して、目が焼けてしまいそうなほどに眩しく輝く。頬を包む冷たさも気にならないほどに美しく雄大な景色に思わず口を開けば、真っ白い息がプカプカと空に浮かんでいった。
『冬になったら、樹氷を見に行こうよ。それでそのまま雪山に入ってさ、二人で身を寄せ合って凍えて死のう』
衝動的に自分を殺してしまいたくなる僕の、手首から流れる血をギュッと布で抑えつけながら、君は柔らかく微笑んだ。いつだって君は僕の無意味な行為を咎めることなく、次の季節になったら二人で終わろうと優しい夢を見させてくれる。手袋に覆われた君の手を、そっと握りしめた。
「どうする? 一緒に死ぬ?」
「……ううん、今日はいいや」
君の問いかけに首を横に振る。幻想的な光景を目にすると圧倒されてしまって、常に僕の心を覆っているはずの漠然とした希死念慮が消えてしまう。それに僕は、君を失いたくない。二人で死のうと言ってくれる君に安堵しながら、君を僕の死にたがりに付き合わせたくないと願っている。
「もうちょっとだけ、一緒に生きてよ」
君の手を掴む力を少しだけ強くすれば、君もまた同じように僕の手を握り返してくれる。冬になったら、春になったら、夏になったら、秋になったら、そうしてまた冬になったら。君と交わし続ける約束だけが、僕を世界に留める軛だった。
11/17/2023, 11:15:43 PM