【この道の先に】
黄金色の月の照らす道を君と二人、手を繋いで歩いていく。知りもしない道を、勘だけでただ闇雲に。
生まれ育った村を離れるのは人生で初めてで、怖くないと言えば嘘になる。だからぎゅっと、君と固く手を握り合うのだ。伝わってくる互いの温度で、なけなしの勇気を振り絞るために。
「ねえ。本当に良かったの?」
不意に、君は僕へと問いかけた。その歩みが躊躇うようにぴたりと止まっている。促すようにそっと、君の手を引いた。
「うん。僕は後悔してないよ」
成人もしていない世間知らずの子供が二人だけで生きていけるほど、きっと社会は甘くない。それでも君が『神様』の生贄に捧げられようとしているのを、見て見ぬフリなんてできなかった。
大人たちが信仰し、崇め奉る『神様』の座す神殿が、ただの空っぽの遺跡に過ぎないことを、僕はとっくに知っている。立ち入り禁止の注連縄を乗り越えて、幼い頃に好奇心だけで神殿へと忍び込んだけれど、大人たちの言う天罰なんて下らなかった。
この道の先に何があるのかなんて、わからない。だけどこの先に広がる可能性は、君が存在しない神様に捧げられて殺される未来よりはずっとマシなはずだ。だって君が生きて、僕の隣にいるのだから。
二人きり手を繋ぎ合って、僕たちは月影の照らす夜の道を再び歩き始めた。
7/3/2023, 12:30:33 PM