『光と闇の狭間で』
頭上の木に留まった黒い鳥が鳴くと遠いどこかから同じように鳴き声が返ってきた。辺りは夕暮れ。あの鳥には仲間がいて帰るところもあるのだろう。私に仲間はもういない。どこに帰ればいいのかもわからない。
ある日突然聖堂へとやって来た勇者と呼ばれる人は魔王を倒すために力を貸してほしいと言った。その人の素性もよく知らず、勇者という肩書きにつられてついていくことにしたのが間違いの始まりだった。過酷な旅に無謀な挑戦を重ねる勇者は誰よりも強かったが、周りの損害を省みない人だった。死んでも生き返らせればいい。そうすればまた戦える。その考えに異を唱えた瞬間に私は一度殺された。
蘇生魔法で目覚めさせられた私は衰弱したままその場に置き去りにされていた。完全に日が沈んでしまえば魔物が湧く。武器も防具も剥がされた私は太刀打ちできずそのまま胃に収まるか、あるいは野垂れ死にして蘇生の間に合わない状態になるだろう。私を見限った勇者はそうなるようにこの場に切り捨てたのだ。
為すすべのない私の祈った先は女神ではなく魔王だった。勇者と呼ばれる者が私よりも酷い目に遭って苦しめばいいと、心の底から願い、呪った。祈りのさなかに魔物に身を食い破られても、血を失い倒れても構わず口元から呪詛を吐き続けた。
やがて意識が途切れる間際、私は夜の闇よりも濃い影が体を包むのを感じ取っていた。知らず浮かんだ笑みを見たのかおかしそうに笑う声は妙に心地よく耳に馴染んでいた。
12/3/2024, 3:27:28 AM