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 鞄を持って家をでる。今日もきっと、あの子はいつもの場所にいるだろう。僕は少し早足になって進む。途中でコンビニによっておにぎりと飲み物を買った。一応、あの子の分も。
 家からいつもの場所こと公園はそんなに遠くない。15分もせずに着く。公園に入るとベンチに腰掛けてるあの子が見えた。

「遅くなってごめんね。今日も隣、いい?」

「……うん、いいよ。まってないけど。」

 少しそっけない態度で、それでも嬉しそうにそわそわしてるところを見るに嫌われているわけではないだろう。かわいい。

「今日はおにぎりをもってきたんだ。よかったら君も食べる?」

 僕がそう言うと、彼女はパッと目に光を宿したあと、伏し目がちに項垂れて言った。

「貴方の物でしょ。」

「これはね。でも僕、君の分も買ってきたんだ。一緒に食べようよ。」

 鞄からおにぎりと飲み物をとりだして彼女に渡すと、小さくありがとうと聞こえた。どういたしまして、と言いながら彼女の様子を眺めているとおにぎりをじっと見つめたあと、袋を開け小さくかぶりつく。これは、かわいい。

「……何見てるの?貴方も早く食べなさいよ。」

 僕が見ているのに気づいた彼女が不満げにこちらを睨んでくる。そんな仕草さえも可愛くて思わず笑みがこぼれれば、彼女は呆れたようにそっぽを向いた。
 おにぎりを食べながらいつものように会話をする。主に、僕が最近あったことを話してるだけだけども。

「今日はね、テストがあったんだ。抜き打ちテストだったから全然勉強してなくてさ。全く解けなかったよ。」

「だから普段から勉強しようって言ったのに。」

「そうだね。君の言う通りだ。君だったら良い点とったんだろうなぁ。」

「……そうね。少なくとも貴方の倍はとれたでしょうね。」

 彼女は最近学校に来ない。多分、いじめが原因なんだと思う。彼女が来なくなってから彼女の机には花が飾られているから。……彼女はここにいるのに。
 前みたいに一緒に登校したい。けど、このはなしをすると彼女はいつも寂しそうに笑うから僕はしつこく誘えないでいる。

「今日は僕と一緒に帰らない?」

「私は……まだ、ここにいなきゃいけないから。ごめん。」

 帰るときまで一緒にいたいという願いも叶えてくれない。仕方がないから僕は2人分のゴミを鞄にしまって帰り支度を済ませる。

「いつも、来てくれてありがと。でも、でもね、もう来なくてもいいよ。……現実を見てほしいの。」

「僕が会いたくて来てるんだから、お礼なんて言わないで?また、明日。」

 彼女の最後の言葉は聞かなかったことにして、手を振って公園を出た。彼女は優しいからきっと悲しい表情をしているだろう。でも僕は、僕はまだ彼女と一緒にいたいんだ。
 きっと明日もまた、ここに来るだろう。

1/7/2024, 9:42:46 AM