#嵐が来ようとも
雨ニモマケズ風ニモマケズ、たとえ嵐が来ようとも。
「こんにちは」
うわ。嵐だ。嵐が来てしまった。
嵐が来ると部屋の中はぐしゃぐしゃになる。電気は止まる、窓はガタガタと音を鳴らす、心もとなくて仕方がない。そんな嵐が来た時に、私はいつもこう尋ねる。
「なんで来ちゃったの?」
「もう、そんなこと言わんといてくださいよ」
そして嵐はいつもこうやって口答えをする。
「嵐やて困らせたいおもてやってるんとちゃうんです」
そうやって口をすぼめている。ええい善人ぶりやがって。たとえ嵐が来ようとも私は負けないぞ。
レジャーシートをタンスから引っ張り出し、キッチンに置いていたサンドイッチ入りの弁道箱を持ってくる。嵐の座る横にシートをひいて、私はどかりと座った。
「嵐が来たって、私は今日ピクニックがしたい気分なんだ」
ん、とサンドイッチを一つ嵐に渡すと、目の前の嵐はおずおずと両手で受け取った。恐縮しているようだけど、その顔は少しほころんでいる。
雨ニモマケズ、風ニモマケズ、たとえ嵐が来ようとも。私は私の嵐を大事にしたいんだ。
7/29/2023, 1:37:32 PM