迫る車体に思わず身を縮めた。次の瞬間、むわりとした風に包まれる。当然来ると思った痛みはほとんど感じなくて、衝撃と熱さ、ただそれだけが俺を齧った。
左足が動かない。いや、首も指先すらも。自分の身体がどうなっているのか知る術がなかった。
目の前には、アスファルトの地面がひろがっている。夏でもないのに夏の匂いがする。地面に倒れてることだけはわかった。あるいは数メートル飛ばされたかもしれない。
「大丈夫かっ!? 」って駆け寄って来る人も居ないもんなんだなあ。
ドラマで見るような風景と比べて馬鹿な感想を抱いていると、救急車の音が聞こえた。
どくん、どくん。
心臓の音がやけに響く。耳の中で直接鳴っているみたいだ。まだ立派に生きてる証。
自分の鼓動が熱い。死にたくないと訴えてるみたいに。
なんだよ。
今更そんなに頑張るなよ。
おまえも俺も、もうじゅうぶん頑張ってきたじゃないか。
救急車の音が止まった。数人の呼ぶ声が近くなったり遠のいたりする。
そして世界が、ふつりと途絶えた。
『熱い鼓動』
7/31/2025, 3:21:28 AM